南米まで行けば…米国への密航に希望を持つ中国人

 15年に米国の国境警備隊は、米国国境を密航という手段で突き破ろうとした中国出身の密航者を48人取り押さえた。しかし、14年まで米国当局には記録がないとし、「(同国境で)中国国民を捕まえたことは一度もない」と述べた。

 しかし、22年末から情勢は急転した。米国への密入国を狙う群れの中にいる中国人は、日を追うごとに増加しているのだ。ある米国在住の中国人関係者はSNSを通しての私の取材に、次のように述べた。

「今年3月までにパナマにある難民キャンプはほとんど中国人に占領されている。ある現地の撮影者から、1日に車十数台分の密航者が運び込まれていて、ほとんどの乗客は中国人だったと証言があった。パナマ政府の発表によると、今年1月から3月の間に3855人の中国人密航者がコロンビアとパナマの国境地帯にあるダリエン地峡を通過した。目的地はアメリカだ」

 太平洋の端にある中国から遠く離れた米国までの道のりは遠い。中国のパスポート所持者に対してビザ免除措置を与える南米の国が増えたことで、米国に近い南米のいくつかの国までは飛行機で移動することができるようになった。米国への密入国を希望する人にとっては、好都合だ。

 エクアドルは、現在多くの中国人が選んだ重要な着地点である。そこからは「蛇頭」が引率する隊列について徒歩で行進する。最後は米国とメキシコとの国境を突破すれば、米国入国が実現できる。

 拙著『蛇頭』を取材していた頃、蛇頭は比較的貧しい暮らしをしていた福建省出身者がほとんどを占める密航者を「鴨子(カモ)」と呼んでいた。しかし、いまは、知識人が多く、密航者は自らのことを「走線人(ルート走破者)」と呼ぶ。密航者の構成内容の変化に、中国の社会事情が色濃く影を落としている。