保険募集のルールが大改正!比較推奨販売の見直しで損保の「テリトリー制」と「1社推奨」にメスPhoto by Akio Fujita

2014年に大改正された保険の募集ルールがまた大改正されることになった。複数の保険商品を扱う乗り合い代理店が行っている比較推奨販売のルールが大きく変わるのだ。その影響は巷間の話題となっている自動車ディーラーのテリトリー制だけでなく、多くの乗り合い代理店に多大な影響を及ぼすことになる。特集『保険大激変』の#16では、現時点で判明している中身を詳述する。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

10年ぶりの保険募集ルールの大改正
多くの乗り合い代理店に多大な影響

 今からさかのぼること約10年前。2014年5月に保険業法が改正され、保険募集に関するルールが大きく変わった(16年5月施行)。複数の保険商品を比較して販売する際に、情報提供義務と意向把握義務、保険募集人に対する体制整備義務の三つの義務が課せられたのだ。

 法改正に至った背景には、複数の保険会社の商品を取り扱う来店型保険ショップなど、乗り合い代理店の急拡大があった。かねて保険販売は、大手生命保険会社の営業職員のように、所属する生保会社の商品のみを売る「一社専属」の募集人が主流だったが、複数商品の中から顧客にとって最適な商品を選んでくれる乗り合い代理店が、消費者のニーズに合致し急速に広がっていた。

「生命保険は売りに行くもので、買いに来る客には気を付けろ」というのが生保業界の常識だった。保険に自ら入りたいという顧客は体に何らかの不安を抱えているケースが多く、いわゆる逆選択の可能性が高いからだ。その常識を覆したのが来店型保険ショップだった。

 その一方で、複数商品からどうやって乗り合い代理店側が商品を選んで提案しているかが問題となった。中には、保険会社から支払われる手数料が高額な商品を優先して販売したり、キャンペーンと称して多額のインセンティブを保険会社が支払ったりするなど、ゆがんだ競争が多発。とても顧客にとって最適な商品を提案しているとは言い難い事態となっていたのだ。

 業界内では、手数料収入を得る目的で、不当に他の商品を勧めて乗り換えさせる行為を禁じるために、かねて保険商品を比較して販売する場合は慎重に行うべきだとされてきた。故に、比較する際には、保険料など一部の比較だけではなく、全ての保障・補償について比較した上で行わなければならないとされている。それを明示しているのが保険業法第300条第1項第6号で、「誤解させる説明や表示を禁じるとともに、一部のみの表示を行わないこと」と定められている。

 ところが、来店型保険ショップなど乗り合い代理店が消費者からの支持を得て拡大してきたのに合わせ、柔軟な対応が行われるようになった。だが、前述のようなゆがんだ競争が多発し、目に余るようになったことにより、14年の保険業法改正につながったというわけだ。

 そこで、顧客の意向に基づいた適切な比較推奨販売を行うために導入されたルールが、保険業法施行規則第227条の2第3項第4号の「イロハ方式」だ。詳細は後述するが、保険会社からの過度な便宜供与によって推奨商品を決めていることが発覚し、今回の一連の損害保険業界の不祥事によって設置された有識者会議や金融審議会で、代理店独自の理由で推奨商品を決められる「ハ方式」が廃止される方向になった。

 その結果、自動車保険を扱う代理店である自動車ディーラーで店舗ごとに推奨損保が決められている「テリトリー制」の見直しが話題となっているが、ディーラーだけの問題ではない。比較可能な同種の保険商品を扱っている代理店ならば、専属に近い代理店であっても、その多くがハ方式廃止の影響を受けることになるからだ。

 次ページでは、ハ方式廃止が代理店に及ぼす影響を考察するとともに、便宜供与の防止に関する監督指針の改正案を明らかにする。