激安株を狙え#6Photo:123RF

東京証券取引所上場の京都企業で、前代未聞の経営権争奪戦が勃発した。昨年、経営権を奪取して社長に就いた個人投資家が今年、別の株主から退陣要求を受ける事態に。YouTubeやSNSを駆使して支持を訴える、アクティビズム新時代の戦いを繰り広げている。特集『激安株を狙え』(全13回)の#6で、その最前線の動きを伝える。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

ユーチューバーが上場企業社長に!
就任1年で筆頭株主から解任要求

「はい、皆さんこんにちはー。私がこれから始める『街頭演説』ですけれども、第1弾のトピックとして扱うのは不適当合併です。ちょっと質問読み上げますと『5月8日付で開示した売り上げ30億円規模の第1号M&A候補案件は不適当合併じゃないのか』という話ですね」

 5月半ば、動画サイト「YouTube(ユーチューブ)」に「街頭演説#1『あれは、不適当合併か』」と題する動画が投稿された。

 ユーチューバーとして顔出しで「不適当合併に該当しない揺るぎない自信を持っています」などと自説を述べるのは、東京証券取引所スタンダード上場のフューチャーベンチャーキャピタル(FVC、京都市)社長、金武偉氏だ。

 金氏はこの1年間、上場企業社長の誰も経験していない数奇な運命を歩んだ。個人投資家のユーチューバーだったが、昨年6月のFVC株主総会で自身の取締役選任を求める株主提案をし、可決。念願のFVC社長に就いたものの、今年の株主総会で、別の株主から事実上の解任要求を突き付けられている。

 株主が企業に物申すアクティビズムが日本で認知され、株主提案は増えた。中には金氏のように、実際に株主総会で経営権を奪取した個人投資家も現れ始めている。

 議決権の1%以上を所有するなど、一定の要件さえクリアすれば誰にでも株主提案権はある。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や動画サイトで簡単に意見が拡散される現代において、個人もアクティビスト(物言う株主)になれる時代が到来した。

 アクティビズム民主化時代の現場で今、何が起きているのか。

 金氏がSNSを駆使して社長の座を射止めた軌跡やその後の苦難、さらに他の上場企業でも個人が株主総会で経営権奪取に挑もうとしている現場と課題を、次ページで明らかにする。