激安株を狙え#5Photo:GOTO_TOKYO/gettyimages

東京証券取引所はPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業への改善要求を打ち出すなど発信が目立つが、彼らが思い描く市場のあるべき姿は分かりにくいとの批判も目立つ。特集『激安株を狙え』(全13回)の#5では、親会社の日本取引所グループ(JPX)の次期トップ就任が有力視される東証出身のプロパー幹部の実名と、“民僚”ともいわれるプロパー組の官僚的な企業体質で、改革の後退を懸念する声を紹介する。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)

システム障害で引責辞任のホープが復帰
それでも次期CEO最有力候補は別に

 2020年10月1日に発生し、日本の株式市場を震撼させた東京証券取引所の株式売買システム「arrowhead」のシステム障害。当日は全銘柄の売買が停止され、東証や親会社の日本取引所グループ(JPX)への信頼を失墜させる大事件だった。

 当時の東証社長だった宮原幸一郎氏は東証出身であり、JPX次期CEO(最高経営責任者)就任を期待されるホープだった。だが未曽有のシステム障害そのものと、関係機関への連絡の遅れで首相官邸の不興を買い、引責辞任を強いられた。

 宮原氏は能力、人望共に優れているとの評価がJPXの内外にあり、引責辞任後はJPX傘下でデータ提供サービスや指数の開発などを行うJPX総研社長に就任。そして今年6月の株主総会において、JPX本体の取締役に復帰する人事案が4月に公表された。

 JPXの山道裕己CEOの同月の定例記者会見では、過去の経緯からこの件を問題視する質問が集中したが、山道氏は「選定に当たっては、指名委員会で社外取締役から満場一致で推奨されたと聞いている」と訴えた。

 とはいえ宮原氏もすでに66歳。山道氏の後継有力候補として名前が挙がるのは、別の東証出身プロパー幹部だ。

 JPXや東証、大阪取引所のトップには長年、民間の大手証券会社の幹部が就いてきた。さらに大証との合併前の東証トップには、旧大蔵省出身者が就くことが多かった。

 ところが現在、東証、大阪取引所共に東証出身者がトップの座にあり、いよいよ東証プロパー幹部がJPXのCEOの座に初めて就く可能性が高まっている。

 ただ、東証の組織文化は「官僚よりも官僚的」といわれ、上場区分の見直しやPBR(株価純資産倍率)の改善要求など最近の施策を巡っても、上場企業側から「コミュニケーション不足だ」といった批判がある。

 また欧米の証券取引所は合併を繰り返して巨大化し、市場運営会社の株式時価総額そのものがJPXを大きく上回る。日本の株取引を事実上独占する東証を抱えるJPXには世界的な市場間競争を勝ち抜くための戦略が求められるが、“民僚支配”となったJPXに、それが果たして可能なのかと危惧する声が上がる。

 次ページではJPX次期トップの有力候補の実名を明かし、6月に就任予定の取締役人事を分析。そして近年のJPX自身のガバナンス不全を改めて検証し、今後不安視される民僚支配のリスクを明らかにする。