2022年夏、東京大学理科三類の学生が留年取り消しを求めて大学側との闘いに乗り出し、話題となった。彼の「1年後の姿」とは?特集『今なら目指せる! 医学部&医者』(全24回)の最終回では、医師を目指す若者と大学側が衝突した“根本原因”を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)
出席確認の点呼に応えると
「例の人だよね」のささやき
「杉浦蒼大――」
授業の出席確認で名前が呼ばれると、学生たちは点呼に応じる声のする方を見る。「例の人だよね」。学生たちからそんなささやきが漏れた。
杉浦は日本で最も入試のハードルが高い東京大学理科三類の2年生。東大理三に入ると最初の2年間は教養学部に所属し、3年次から医学部へ進学する。杉浦は教養学部で学んでいた昨夏、今まさに出席している「基礎生命科学実験」の単位を巡って、図らずも“時の人”になってしまった。
基礎生命科学実験は4~5月に計6こまの授業が行われ、理系にとって、落とすと一発で留年に直結するほぼ唯一の科目。杉浦は昨年度、この単位を落とした。このため2年生のまま、今年度再び受講している。
昨年度、杉浦に何が起こったのか。
2022年5月17日、杉浦は高熱が出て意識もうろうとし、連絡をしないまま基礎生命科学実験の授業を欠席した。翌日に新型コロナウイルス感染の疑いでPCR検査を受け、翌々日に陽性が判明。翌週24日の授業も欠席した。25日に2こま分の欠席を教員に連絡し、24日については補講措置が取られた。
翌6月、この科目の単位を不認定とする通知が届いた。杉浦は5月17日の欠席が響いたと悟った。
欠席手続きについては一定のルールが存在し、そこから外れた手続きは日常では教員の裁量に委ねられるところだ。単位不認定の通知を受けて、杉浦はコロナ感染の症状が重篤だった事情から手続きの正当性を主張した。しかし、5月17日の欠席についての補講措置と単位認定は認められないとの回答があった。
回答の翌日、杉浦はこの科目の成績が大幅に下方修正されたことを確認した。その直後、大学側から「欠席の取扱いに関係なく、評価が及第点に及ばない」との連絡があった。成績を下方修正の理由について説明を求めたが、それに対する回答は返ってこなかった。
直接の対話に応じてもらえずに憤った杉浦は、22年8月4日に記者会見を開いて事態を公にした。メディアがこれを報じると、大学側は新聞社に送った報道に対する抗議文をホームページに掲載した。またメディアの取材で、下方修正については他の学生の評点が入れ違っていたと答えた。杉浦本人には回答しなかったのにだ。
不信感が募った杉浦は、訴訟に踏み切った。