今なら目指せる! 医学部&医者#18Illustration by Yukiko Kikutani

若手医師の大学医局離れが進み、小説『白い巨塔』で描かれたような医局ヒエラルキーは崩壊、教授の権威も低下している。そんな中で新世代の教授は古い医局体制を見直し、仕事ぶりも収入源も先達のスタイルとは180度異なる。特集『今なら目指せる! 医学部&医者』(全24回)の#18は、新時代の教授像に迫る。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)

「週刊ダイヤモンド」2023年6月3日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

院内政治を知った1度目の教授選
怪文書が出回った2度目の教授選

 2021年早春、皮膚科医の大塚篤司(当時44歳)は、病棟医長室で一人カルテを開き、がん患者のCT(コンピューター断層撮影)写真を確認していた。左肺にあった転移巣は見るからに縮小している。ほっと一息ついたその時、白衣の左脇ポケットに入れたPHSがブルブルと鳴った。

「交換です。近畿大学からお電話です。おつなぎしてもよろしいでしょうか」

 近畿大学は、自身が3回目の教授選に出馬した大学名。間違いない、教授選の結果だ――。

「もしもし大塚です」

 緊張のせいか声が上ずり、うまく発声できない。

「こちら近畿大学皮膚科選考委員長の○○です。厳正なる選考を行いました結果、先生に皮膚科学講座の教授をお願いすることにいたしました」

 やった。ついにやった。大塚は湧き上がる喜びを最大限に抑制し、できる限り冷静な声で答える。

「ありがとうございます」

 選考委員長に礼を述べ、PHSを切ってすぐ、大塚は誰もいない部屋で、一人ガッツポーズを決めた。ついに、やっと、本当に三度目の正直で教授選に勝つことができた。

 大塚は、研修医の頃から周囲に「教授になりたい」と言ってはばからなかった。自分がつくりたい大学医局の姿を常にイメージし続けてきた。実力ではなく政治で決まることを身をもって思い知った1度目の教授選。そして「SNSで患者の悪口を書いたり、下品な言葉をつぶやいている」という怪文書が出回り、見えない敵におびえながらも、改めて新時代の医局をつくる闘志が湧いた2度目の教授選。

 そして3度目の挑戦である今回の近畿大学の教授選で、やっと20年越しの夢にたどり着いた。大塚は、大急ぎで直属の上司、共に研究を進めてきた後輩や仲間たちに結果を報告した。ひとしきり報告を終えた後、「気が早い」と自身に苦笑しながらも、大塚は4月からのことに思いをはせずにはいられなかった。