またロジック半導体のビジネスには、半導体メーカーが最終製品の用途やスペックまで考えて企画開発するやり方と、最終製品メーカーから言われたとおりのものをつくるだけのやり方の2通りがある、という坂本氏は、「日本の半導体メーカーは後者のやり方に流れてしまっている」と指摘します。

 日本の半導体企業が受託に走りがちなのは、大きな事業成長を目指す上では問題です。では受託でなく事業を進めるにはどうすべきか。やはりマーケティング的な要素や、技術営業のようなことを疎かにはできないのではないでしょうか。技術が分かる人間が顧客のニーズをつかんで、そこから半導体の将来を描くことが必要なのです。それができていなかったことが、多くの日本の半導体企業の現況につながっているのではないかと思います。

 NVIDIAやソニーのCMOS事業が生き残っている理由には、自社でソリューションまで一度作りあげて、顧客のニーズをつかむことができたということが大きい。半導体事業に限らず、日本のほかの企業でもそうした考え方は必要ではないかと感じます。

半導体産業でも起きた
「イノベーションのジレンマ」を避けるには

 かつての総合電機メーカーは、半導体から家電、パソコンや携帯電話などの通信機器、そして発電機まで、さまざまな事業を手がけていました。これは広くポートフォリオを持つことで、景気の変動に左右されにくい経営ができるという考えが根本にあったのだと思います。しかし今や大手メーカーは、小回りが利いて変化のスピードに適応できる専業企業に翻弄(ほんろう)されています。

 ある意味で総合電機メーカーの顔も持っていたソニーがCMOSセンサーを生き残らせることができたのは、奇跡といってよいのではないかと思います。NECも日立も東芝も総合電機メーカーでしたが半導体に投資しきれず、今の日本の半導体領域の劣勢にもつながっています。

 多くの産業を抱える大企業の企業価値が、各事業の価値の総和よりも小さくなってしまうことを「コングロマリットディスカウント」と呼びます。スピードや投資の仕方など経営判断が大きく異なる事業を、巨大企業がまとめて見ることは難しいのではないかと思います。

 特に、成長著しい新興分野と成熟市場とを1つの企業で統治するのは難しい。こうした状況をクレイトン・クリステンセン氏は「イノベーションのジレンマ」と呼びました。次回は大企業が新規事業を立ち上げて成功するための考え方や、スタートアップがそうした大企業のアセットを活用して大きく成長するための方策について、考察していきます。

(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)