それができると、オリジナル作品を生み出すクリエイターは、圧倒的な時間の節約が可能になります。作画であれば、絵の背景はAIにまかせて主題は自分が描き込むとか、いくつものメロディラインのたたき台を聞いて、より良い曲を生み出すこともできるでしょう。

 プログラマーにとってもAIは良い相棒になるでしょう。AIへの指示の与え方が十分に具体的かつ詳細で、適切であれば、AIは「それっぽいプログラム」を書くことができます。また、「それっぽいプログラム」の品質を担保するためにそれをテストするプログラムもまた、AIに書かせることができるでしょう。AIを使いこなすのは従来のプログラミングスキルとは異なるので、AIがないとプログラムが書けないという新世代のプログラマーも出現するはずです。

これからの
人類の仕事

 その過程で、人類の仕事は「適切な問いを立てること」になります。

 適切な大きさと内容の問いを与えれば、それをAIは解いてくれます。ただし問いが大きかったり曖昧だったりするほど、AIの解答は「それっぽい」けれども、かならずしも「適切」とは言えないものになります。そこで、その正当性をさらにAIで確認したり、改善したり、もしくは自らの問いを見直したりするのが、人類の仕事になるのだと思います。

 AIは、人類の立てた問いに対して、世の中にあるパターンを映し出してくれる鏡です。浅い理解でこなせていた役割はAIがとって代わりますが、理解を深掘りする必要のある役割は人類に残り、AIがその人にとって「知性のモビルスーツ」になります。

 大切なのは、これまでと変わらず、立てた問いに基づく探索と学習をやり切る「試行力」です。いままでより多くのトライ&エラーができるようになるという意味でも、これからは楽しみな時代です。

そして、人類は
もっと自由になる

 以前、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、「エヴァンゲリオン」で知られる庵野秀明監督が、ある部分のコンテを自分ではつくらないと言い張り、一流のクリエイターに任せるシーンがありました。しかしどれも納得できず、最後には自分でつくり出してしまいます。結果的にそれがすばらしい作品になるわけですが、そこには「一流の人が超一流になる方法」が描かれているように、ぼくには見えました。狙っていたわけではないにしても、一流の人たちがつくったたたき台の上で超一流の人が仕上げるという流れになっており、この手法ならば、たしかにすばらしい作品になるだろうと納得したものです。

 AIのクリエイティブ能力が上がるということは、「高いレベルのたたき台」をだれでも手に入れられるようになるということです。