選別される生保・損保・代理店#23Photo by Yoshihisa Wada, Yasuo Katatae

生保業界で頻発し続ける金銭不祥事に業を煮やし、金融庁は業界統一の「営業職員ガイドライン」の作成を水面下で迫っている。業界は回避をもくろむが、まさにきっかけとなった第一生命保険の稲垣精二社長が、2022年7月に生命保険協会長に就任する予定だ。新協会長には重過ぎる宿題が突き付けられている。特集『選別される 生保・損保・代理店』(全28回)の#23では、攻防戦の行方を探った。(ダイヤモンド編集部 片田江康男)

止まらない金銭詐取事件
生保協会の“防衛線”死守なるか

 2020年10月、山口県周南市を拠点とする第一生命保険の元営業職員(生保レディー)が、顧客24人から19億円超に及ぶ金銭詐取を行っていたことが公表された。第一生命だけではなく、生命保険業界にとっても、最悪の形でパンドラの箱が開いてしまった瞬間だった。

 業界団体の生命保険協会は、公表当初から事件は「個社特有の事案」であると整理。それは、金融庁から業界全体の対応などを求められないようにするための“防衛ライン”でもあった。

 だが、19億円超という巨額金銭詐取事件は、生保業界全体の信頼失墜に結び付きかねない。そこで生保協会は、生保レディーなどの営業職員チャネルを持つ20社を対象に、コンプライアンス・リスク管理に関するアンケートを実施。さらに1年後にはフォローアップアンケートも行った。

 生保各社はアンケート結果を参考にベストプラクティスを取り入れて、管理体制を改善することを申し合わせている。実際、そうした生保もあったようだが、業界に自浄作用があることを金融庁や業界内外に示し、信頼低下を食い止める狙いもあった。

 ところが、である。その後も金銭詐取事件や顧客の意向に沿わない保険契約が、第一生命以外からも続出したのだ。

 こうした事態に、業界の“防衛ライン”を容認していた金融庁が動きだそうとしている。次ページで、業界と金融庁の攻防戦に迫る。