政治の世界も「レトロ」、
実はアメリカもロシアも中国も…

 しかも、もっと言ってしまえば、我々が昭和レトロに魅せられているのは、ファッションや音楽だけではない。政治もそうだ。

 やはりこの30年、たびたび「田中角栄ブーム」が定期的に起きている。近年では、石原慎太郎氏が政界引退後の2016年、田中角栄を描いた小説『天才』がベストセラーになった。そして、今年3月には田中角栄の91万のベストセラー「日本列島改造論」が復刻発売された。その帯を引用させていただこう。

「稀代のリーダーの実行力から学ぶ 日本の歩むべき方向のヒント」

 筆者も今から20年前の雑誌編集者時代、政治記者をしていた先輩から「今こそ田中角栄だ」と売り込まれ、まったく同じコンセプトの記事を企画したことがある。政治の世界でもこの30年、「田中角栄というレトロブーム」がずっと続いているのだ。

 では、なぜこんなにも我々は30年もの間、「レトロ」に魅せられ続けているのか。まず、考えられるのはこれが現代人の特有の「病」だということだ。

「社会学の巨人」と呼ばれるジグムント・バウマンは、『退行の時代を生きる――人びとはなぜレトロトピアに魅せられるのか』(青土社)の中で、今の先行き不透明な世界では、「昔はよかった」と現実逃避をする風潮があるとして、レトロ(懐古趣味)とユートピア(理想郷)を組み合わせた「レトロトピア」という造語をした。

 その代表が、「アメリカをもう一度、偉大な国に」というスロガーンを掲げた米トランプ前大統領だという。これは、ロシアも同様で19年、独立系世論調査機関「レバダ・センター」の定期調査では、ロシア人の中でスターリンへの肯定的評価が年々上がっていて50%を超えた。また、別の世論調査では、ソ連時代は最高だったと答える人が75%にのぼっている。

 お隣・中国も然りで、クーリエジャポンの『ブーム再来!中国のZ世代が今、毛沢東に夢中なワケ』によれば、中国のZ世代のあいだで毛沢東の人気が再燃中で、図書館や地下鉄のなかで『毛沢東選集』を読んで、その感想を動画などで語り合っているという。

 日本もレトロピアの傾向が強い国のひとつだ。朝日新聞社が15年に行った世論調査(郵送)で「戦後日本が一番輝いていた時期」を「戦後の復興期」「高度経済成長期」「バブル経済期」「現在」の4択で尋ねた。すると、「高度経済成長期」が最多の58%で「バブル経済期」が17%、「戦後の復興期」が14%と続き、「現在」と答えた人はわずか7%だったという。つまり、日本人の9割以上は「今より昔の方がよかった」と思っているのだ。

 この世界的に見られるレトロピアという現象が、日本の30年近く続く「レトロブーム」にも大いに影響しているのではないか。