「エルボー男」の逮捕や、
ベビーカーへの嫌がらせも
また、タックル男ほど有名ではないものの、今年5月には「エルボー男」というのが逮捕されて、話題になった。
報道によれば、今年2月に東京・杉並区にある路上で自転車に乗った女性をすれ違いざまにひじで殴ったとして30代の男性が逮捕されたという(その後不起訴)。『週刊女性』の記事によると、この道では以前からママチャリを狙って「肩パン」をしたり、「ここは優先道路じゃねえんだよ!」と怒鳴る男がいて、うわさになっていたという。
ちなみに道路交通法上、車道の通行が危険な場合は自転車が歩道を通行することは可能だ。この道路の場合、並走する道路は交通量が多く大型トラックなども走るため、いわゆるママチャリの走行には適していなかったそうだ。
また、この記事を書いている間にも、ツイッターのタイムラインには、ベビーカーを押していたところ、男性にわざとぶつかられたという母親のツイートが流れてきた。動画にはその男性がベビーカーをつかみ、母親と口論する様子が映っており、この女性はその後、警察に被害届を出したという。
ただ歩いているだけなのに、悪意を持ってぶつかられる――。
そのような被害経験がない人からすると、「そんなことが本当に日常の中で起こるのか?」と思ってしまいそうである。しかし多くの人が動画撮影機能のついたスマートフォンを持つようになり、その様子が記録・拡散され始めたため、その被害が伝わるようになってきた。
ただ、このような行為を見ると、加害行為をする側にも何らかの処置(ケアなど)が必要なのではないかと思わざるを得ない。加害側にも何らかの事情があり鬱屈を抱えているであろうからだ。
その意味で「アンチマン」は、その加害側の事情をリアリティーをもって描いていた。
もちろんフィクションであるし、あまりにもできすぎた想像上の、インセル(異性との交際が長期間なく、経済的理由などで結婚をあきらめた独身)、あるいは女性差別主義者の背景だと思う人もいるだろう。
しかし、SNS上で女性差別的なツイートを繰り返す人々が、しばしば自分たちを虐げられた弱者男性(非モテ、経済的弱者、社会から見捨てられた存在であるなど)であると自称することから言えば、ここで描かれたアンチマンの姿は、実態から著しくかけ離れているとも思えない。
痴漢や盗撮、あるいはぶつかりなどの加害行為をしている人が、ネット上で日頃どのような発信をしているのか。逆に、差別的な発信をしている人は、普段どのように日常生活を送っているのか。知りたいと思ったことがある人もいるはずだ。
そんな問いを解消する、腑(ふ)に落ちるところがあったからこそ「アンチマン」は絶賛され、逆に、「現実はこうではないはずだ」と考える一部からは酷評されたのだと感じる。