6月18日、早稲田大学を象徴する大隈記念講堂の入り口に一目で分かる大きな看板が立てられた。
「岸田文雄内閣総理大臣講演会」
講堂内に足を踏み入れると、至る所に屈強な警視庁の警護官(SP)が目を光らせていた。聴衆の中には岸田の後見役を自任する早稲田OBの元首相、森喜朗の姿もあった。通常国会の会期末まであと3日というタイミング。一時は岸田の母校での凱旋講演について、「衆院解散に触れる発言があるかもしれない」(自民党関係者)との臆測が飛んだ。
しかし、15日夜の異例の岸田発言で、講演に対する関心は急速に薄れていた。岸田が自ら衆院解散の可能性を打ち消していたからだ。
「今国会での解散は考えていない」
これでは講演が盛り上がるはずはなかった。記者席も空席が目立った。岸田は講演で先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の成果など外交に多くの時間を割いた。その上で1000人の学生にエールを送って話を締めくくった。
「私の学生時代は道草、寄り道の連続で、(今の自分は)当時としては想像もできない『まさか』だ。皆さんにも、この先思いも寄らぬ『まさか』がある」
だが、この日の講演では衆院解散には一切触れることなく、「まさか」も皆無だった。この岸田とは対照的に「まさか」をしばしば口にして長期政権を実現したのが元首相、小泉純一郎だった。
「人生には三つの坂がある。上り坂、下り坂、そして『まさか』の坂だ」