梨農家生まれ農林中金出身の日本人留学生が「ハーバード」で学んだ本当の幸せ・成功・強みハーバードビジネススクールの学生たちと(前列左から1人目が中山将太氏)=2023年4月28日、ボストン 写真提供:中山将太

2023年5月25日、ハーバードビジネススクールでは984人の学生が卒業式を迎えた。その中の数少ない日本人卒業生の一人が中山将太さんだ。「MBA留学は人生を変える」とよく言われるが、ハーバードビジネススクールへの留学は中山さんの人生にどんな変化をもたらしたのか。卒業後まもない中山さんにインタビューした。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)

生まれは佐賀県・伊万里市の梨農園
ハーバードで触れた“知の最先端”とは?

 農林中央金庫からの社費留学生として2021年8月、ハーバードビジネススクールに入学しました。出願時に書いた私の短期目標は「アグリテック(農業が抱える課題を解決するテクノロジー)への投資を通じて、日本の地方経済の発展に貢献したい」。「近年、衰退しつつある地方の農林水産業を再興するためにも、もっとグローバルな視点から投資や経営について学びたい」という強い思いを抱き、留学しました。

梨農家生まれ農林中金出身の日本人留学生が「ハーバード」で学んだ本当の幸せ・成功・強み中山将太(Shota Nakayama) 1987年佐賀県生まれ。2007年九州大学経済学部入学。09年中国・南京大学、10年香港中文大学留学。11年九州大学経済学部卒業後、農林中央金庫入庫。青森支店、ロンドン支店、本店にてスタートアップ企業への投資などに携わる。21年ハーバードビジネススクールに入学。23年5月、経営学修士(MBA)取得。23年6月より農林中金キャピタル企業投資部ヴァイスプレジデントとして、承継課題を抱える地方企業などへの支援に従事。写真提供:中山将太

 もともと私は佐賀県伊万里市の農家の生まれです。実家は祖父母の代から長らく梨農園を営んでいました。ところが梨農園の経営だけで生活していくのは難しく、約10年前に廃業しました。

 家族が梨農園の廃業を検討し始めたのは大学生のころだったと思います。どうにかして梨農園を続けられないか、梨を中国に売ったらどうだろうかと自分なりに考え、中国や香港にも留学しました。ところがそんな簡単に中国への販路が築けるわけではありません。やむなく廃業したときは悔しい思いでいっぱいでした。

 大学卒業後は迷わず、農林中央金庫に就職しました。「日本の農林水産業の発展を現場と金融の両面から支援する」という経営理念に深く共感したからです。

「日本全国には自分の家族と同じような問題に直面している人たちがたくさんいる。この国の農林水産業が抱える課題を解決するのは、自分の人生のミッションだ」と思い、入社を決めました。

 青森支店での農業法人への融資や本店での投資業務を通じて実感したのは、いわゆる「もうかる農業」を実現するには、テクノロジーの活用が不可欠だということです。世界の最先端のアグリテックと日本の農家をつなぐ架け橋になりたいという気持ちがどんどん強くなり、MBA留学を志しました。