2023年5月25日、ハーバードビジネススクールでは984人の学生が卒業式を迎えた。その中の数少ない日本人卒業生の一人が中山将太さんだ。「MBA留学は人生を変える」とよく言われるが、ハーバードビジネススクールへの留学は中山さんの人生にどんな変化をもたらしたのか。卒業後まもない中山さんにインタビューした。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)
生まれは佐賀県・伊万里市の梨農園
ハーバードで触れた“知の最先端”とは?
農林中央金庫からの社費留学生として2021年8月、ハーバードビジネススクールに入学しました。出願時に書いた私の短期目標は「アグリテック(農業が抱える課題を解決するテクノロジー)への投資を通じて、日本の地方経済の発展に貢献したい」。「近年、衰退しつつある地方の農林水産業を再興するためにも、もっとグローバルな視点から投資や経営について学びたい」という強い思いを抱き、留学しました。
もともと私は佐賀県伊万里市の農家の生まれです。実家は祖父母の代から長らく梨農園を営んでいました。ところが梨農園の経営だけで生活していくのは難しく、約10年前に廃業しました。
家族が梨農園の廃業を検討し始めたのは大学生のころだったと思います。どうにかして梨農園を続けられないか、梨を中国に売ったらどうだろうかと自分なりに考え、中国や香港にも留学しました。ところがそんな簡単に中国への販路が築けるわけではありません。やむなく廃業したときは悔しい思いでいっぱいでした。
大学卒業後は迷わず、農林中央金庫に就職しました。「日本の農林水産業の発展を現場と金融の両面から支援する」という経営理念に深く共感したからです。
「日本全国には自分の家族と同じような問題に直面している人たちがたくさんいる。この国の農林水産業が抱える課題を解決するのは、自分の人生のミッションだ」と思い、入社を決めました。
青森支店での農業法人への融資や本店での投資業務を通じて実感したのは、いわゆる「もうかる農業」を実現するには、テクノロジーの活用が不可欠だということです。世界の最先端のアグリテックと日本の農家をつなぐ架け橋になりたいという気持ちがどんどん強くなり、MBA留学を志しました。