「知らない」と「違う」の差
私は「知らない」私は「していない」はどちらも「私(親自身)」中心のメッセージです。ここでは「自分メッセージ」と呼びます。
「自分メッセージ」は私が「そう思ったら、そう」という自己完結型の思考から生まれます。一方、「違う」と「そんなことない」は何かと比較しての言葉です。何か(例えばAとB)を想起し、それらは同じでない。だから違うという言葉となります。自分なりに違うという根拠を持っています。
つまり、「知らない、してない」も同じような意味として受け取ってしまいがちですが、実はメカニズムがまったく違うのです。
まとめると、サインを見極めるポイントは「私(親自身)」が中心で発している「自分メッセージ」なのか、周囲や前後の状況を想起した返答なのかというのが認知症の初期症状を疑うポイントです。
認知症とは、「自分の世界で生きている状態」
認知症になると、一般的にものを見てわかるはずが、わからない。状況的に見て行動したはずが、やってない。と答えるようになります。
たとえば、失禁した下着をタンスの裏に隠すケースでは、下着の中で漏らすのは良くないことだと理解しています。しかし、粗相をしてしまった。そんな「都合の悪いこと」は「私(自分の世界)」では認められないのです。悪臭で下着が発見され、下着の名前や状況から誰がやったのか明らかになってしまいますが、自分を取り巻く環境、背景までは考えられないのが認知症です。
複雑な、あるいは論理立った段階的な思考プロセスは踏めずに、短絡的、直線的な思考と判断がされてしまいます。決して善悪の判断がつかないわけではありません。
しかし、認知症で社会性が乏しくなると、他の誰かにとって不都合であっても「私」が優先されます。
もし、親から「知らない・していない」という発言を聞く機会が増えてきたら、反射的な回答をさせる前に、親に対して質問の意図を説明し、前後の記憶や状況について考えてもらうように優しく誘導してみてください。親には悪気などありません。
認知症が進行していくと感じたら、早めに受診して認知症検査を受けるか、最寄りの地域包括支援センターに、今後どうすべきかの相談をしてみると良いかもしれません。一人で悩むよりも、まわりの人に相談しながら対応していくのがいいでしょう。