老いてきた親とのコミュニケーションは非常に複雑で繊細です。相手のことを思って言った一言が引き金となり「年寄り扱いするな!」「死ねってことか!」とかえって揉め事になってしまうケースは少なくありません。免許返納や認知症検査、デイケアサービスの提案など、親の自尊心を傷つけずに自分の意見を伝えて話し合いに持っていくのには時間がかかるものです。こういったコミュニケーションが上手くいかず親は子どもに対し「年寄り扱いされた」、子どもは親に「意地になって話も聞いてくれない」と親子の関係が拗れてしまうことも少なくありません。今回はこういった悩みを少しでも解決すべく、これまでのべ50万人を支援してきた行列ができる介護・リハビリ施設の創業者である萩原礼紀氏の記事をお届けします。
認知症初期症状のサインとなる口癖
認知症初期症状のサインとなる言葉があります。それは「知らない・していない」です。単純な否定形の反応は初期の認知症の特徴として認められます。
必要以上に敏感になる必要はありませんが、「知らない・していない」は何気ない日常に潜んでおり、つい見落としてしまいがちです。たとえば、次のような会話はどうでしょうか?
あなた:テーブルの上のケーキ食べたのお母さん?
親 :知らない。
あなた:トイレ使ったら水流しておいてよ!
親 :使ってない。
あなた:テーブルの上のケーキ食べたのお母さん?
親 :違うわよ。
あなた:トイレ使ったら水流しておいてよ!
親 :流さないなんてことあるわけないでしょ。
ピンと来る人ももしかしたらいるかもしれません。
何かの問いかけに対して回答を出す際に、自分の頭の中の記憶を思い返して判断するというプロセスを踏んでいる場合は、ただの「記憶違い」であって認知症ではありません。その場合の返答はほとんどの場合、「違う・そんなことない」です。
しかし、このように実際の行動を思い返さずに返答をしている場合は「記憶違い」ではない可能性があります。では、「知らない・してない」と「違う・そんなことない」はどう違うのでしょうか?