DX利権 日本カストディ銀行の悪事#1

日本カストディ銀行が、外部弁護士から成る調査委員会をひそかに発足させたのは今年1月のことだ。その前月、同行の田中嘉一前社長が退任直前にコンサルティング会社を設立し、ITベンダーを介して業務委託費を得ようとしたことが発覚したからだ。特集『DX利権 日本カストディ銀行の悪事』(全5回)の#1では、国内最大の資産管理銀行を舞台にした、数々の疑惑を明らかにしていく。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

日本カストディ銀行の調査報告書入手!
IBM、野村総研…IT企業を巻き込んだ「DX利権」の全貌

「社内で確認する。いったん預からせて」

 2022年の年の瀬が迫った12月8日。日本カストディ銀行(CBJ)のシステム統括部長、村上雄一郎氏は、目の前の男からある事実を聞かされ、そう答えざるを得なかった。

 男はキンドリルジャパンの金融第8事業本部第1事業部長、杉山達朗氏。キンドリルは日本アイ・ビー・エム(IBM)のマネージド・インフラストラクチャー・サービス部門から21年に分社化したIT企業で、CBJは基幹システムである「NICE基盤」の更改検討に際し、同年9月からキンドリルと業務委託契約を締結していた。

 杉山氏が口にしたあらましは、こうだ。

 CBJの田中嘉一社長(当時)が22年12月31日に社長を退任した後、キンドリル側のコンサルタントとしてNICE基盤更改プロジェクトに関与する。その際、キンドリルからAITという会社を介して田中氏の個人会社に再々委託する予定だ、と。

 村上氏には“寝耳に水”の話だった。

 その約半年後の今年6月9日、CBJは「元取締役による不正行為について」と題するリリースを公表した。そこには「外部委託業務に関連して、元取締役による利益相反や任務違背などの不正行為が認められた」などと記されているが、「元取締役」が誰で、「不正行為」が何かを一切明らかにしていない。

 結論からいえば、この元取締役こそ田中氏であり、不正行為の一つが、キンドリルAIT案件だ。

 しかし、それだけにとどまらない。

 ダイヤモンド編集部は、CBJの調査委員会が今年1月から5月にかけてまとめた報告書を入手。約70ページに及ぶ報告書は、CBJの役職員やキンドリル以外にも、IBM、野村総合研究所、KDDI、SCSKサービスウェアなど、名だたるIT関連企業をヒアリング対象とし、関係する契約書類やメールの解析などの大々的な調査の結果が記されている。

 そこから浮かび上がるのは、巨大システムを抱える国内最大の資産管理銀行を舞台にした権謀術数と、ITベンダーを巻き込んだ「DX利権」の疑惑の数々だ。

 その全貌を次ページから明らかにしていく。