拡大しない経営写真はイメージです Photo: PIXTA

事業を拡大させることだけが必ずしも経営の正解ではない。未来の予測が難しく不透明な時代に求められるのが、事業規模を維持しながら会社を存続させる「拡大しない経営」だという。激動のIT業界を40年以上生き抜いてきた技術者兼経営者のマインドに迫った。本稿は、水尾恒雅『拡大しない経営』(幻冬舎メディアコンサルティング)の一部を抜粋・編集したものです。

社員30人ほどの小規模を武器に
大きな価値を生む方法とは

 小さい規模で経営を続けることの最大の魅力は、やりたいことをやり通せることに尽きます。大きくなればなるほど組織のマネジメントに追われ、やりたいことがやれなくなるので、あえて大きくしないという方針を貫くのも一つの経営の正解なのです。

 小さな組織の会社は意思決定が組織のすみずみに速やかに行き届き、状況に応じて柔軟に舵を切ることができます。迅速かつ正確に意思の伝達ができるため、齟齬もなく全社員が正しい方向を向きながら事業を走らせることができ、小さな組織の会社でも大きな価値を生み出していけるのです。

 私の会社のように30人規模であれば、全体の会議も社長の一声ですぐ開くことが可能ですし、社長自らが取引先へ赴いてプレゼンをすることもできます。

 30人規模を分かりやすく例えるなら、バス一台分に乗車できる人数です。車内を見渡せば、乗車している人たちの表情までよく見えますし、話しかければその場でコミュニケーションも取れるくらいの距離感です。私にとっては一人ひとりに目が届く、ベストな人数なのです。

 働く側にとっても小さな組織の会社はそれなりの魅力があります。少数精鋭で事業を行うわけですから、一人ひとりが会社に与える影響力は決して小さくありません。モチベーションを高くもって取り組めば取り組むほど、会社の未来にも影響を与えることができます。自然と社員一人ひとりの会社に傾ける熱意も高く保たれますし、それが社員の人生の充実度にも直結します。

 また大きい会社に比べて圧倒的に社内的な業務が少ないのも魅力です。小さな組織の会社は部署間の垣根が低く見通しの良い職場なので、タイムリーに情報の共有が行え、煩雑な社内業務は少なくて済みます。社員は社外に向けた業務に専念でき、顧客のニーズを満たした製品づくりや交流に力を注げます。

 要するに社員にとってもある程度の権限と自由があり、やりたいようにやれる部分が多いのが小さな会社なのです。

 小さな会社の社長は、自分の好きなように自由に経営ができます。それはつまり、すべての責任は社長自身が背負うことを物語っています。すべての経営的な判断は社長が全責任をもつべきであり、認知していなかったとか、部下が勝手に判断してやったとか、そんな言い逃れは許されないのです。これをデメリットと取る人もいるかもしれませんが、私はこれも小さな組織だからこそのメリットと感じています。

 会社経営に関わるすべてのことが自分の責任であるということは、言い訳がいっさいできないということです。目の前に立ちはだかる課題にどうやって対処していくべきか、問答無用でその一点だけに集中することができるのです。そして迅速な対応が会社の評価につながります。すべての責任を背負うことで、自分の判断や一挙手一投足が会社の今後を左右するのです。

数字では勝てない大企業に
5つの理念とニッチ市場で勝負

 大きな会社は自社をアピールするとき、年間売上が何千億円だとか、数字で圧倒できます。数字ほど分かりやすいものはなく、それが顧客の信頼につながり、安定した雇用にもつながります。

 拡大しない経営においては、数字では大企業には対抗できません。ではどこで差をつけるのかといえば、会社の芯にある部分、つまり理念で勝負することになります。創業時に抱いたビジョン、それをとことんやり抜くための原則となる理念を打ち立てることが重要です。

 私の会社では、次のような理念を立てています。

 私たちは、物真似をしない独自の商品を創造しなければなりません。

 その商品は、使う人にとって優しくなければなりません。

 その商品は、継続して進化できるものでなければなりません。

 その商品は、適正な利益をもたらす源泉でなければなりません。

 この理念に基づいて、小さな組織ならではのスピード感で新しい商品を開発し続けることを心掛けています。

 理念が社内に浸透していれば、全社員が理念に基づいて行動してくれます。仕事のなかで迷いが生じたとき、商品に込められている思いを見失ってしまったとき、理念を思い返せば、自ずと取るべき行動や選択が見えてくるものです。

 理念に基づいた行動が徹底されていれば、自然と社外にもその理念は浸透していきます。私の会社の場合、あそこは面白い商品を持ってくる会社だと認識されています。すると、社員が顧客のところへ訪問すると、今日はどんなユニークな商品を見せてくれるのだろうという期待感をもって接してくれるのです。