つまり、理念を貫いて会社経営をしていれば、社内外を問わず、会社や商品のファンが増えていくということです。本来であれば小さい会社ではなかなか営業ができないような大手企業であっても、むしろ向こうから呼んでくれるという信頼関係を築けていけるわけです。したがって起業をするうえでは、これだけは絶対に譲れないという理念を必ずもつべきです。

 この点、少数精鋭で戦う小さい会社には有利であるといえます。理念からずれた行動をしている社員がいたらすぐに気づくことができ、さらに、改めて理念の浸透を促すことで社内の結束力を高めることもできます。

 また、理念に共感した人が自然と集まってくれ、採用でミスマッチが起こりにくいのも小さい会社の利点です。理念は社長のやりたいことを叶えるための原則に基づいてつくられていますから、理念を理解した人が集まってくれるほど、より社長の夢は叶えやすくなっていきます。

 他に、小さな会社なら大手企業が切り込まない分野に躊躇なく参入できるという利点もあります。私の会社はコールセンターを設置している企業向けに、顧客管理の業務を効率化するソフトウェアを提供することを主な事業としています。

 中小規模コールセンターをターゲットとしたソフトウェアは、もともとは非常に少なく、ニッチな市場でした。今でこそたくさんの企業が参入することとなり、競合の多い市場となりましたが、初期から参入していたからこその技術力と信頼で、競合に負けず劣らずの経営が続けられています。自らその領域へ行ったというよりは、そのニッチな市場から声を掛けられて参入したと表現するほうがしっくりきます。

 例えばユニークなソフトウェア商品を開発していたところ、たまたま音声分野に強い会社から声を掛けられ、要望に応える形で音声関連の商品を開発し、その分野へと本格的に参入しました。

 ニッチな層に向けた経営を続けていると、顧客のほうから、こういう商品はつくれないか、もっとこういうものが欲しいという要望を受けることもあります。これが次の商品開発のヒントにもなり、顧客という資産の継承が、拡大しない経営を安定化させてくれるのです。

 コツコツと技術や経験を積み重ねていけるからこそ、ニッチな市場で生き残ることができます。顧客を満足させるだけの商品開発ができ、ファンや支持者を増やし、長く愛用されて安定した経営を続けることができます。しかもニッチゆえに、さらに新しい仕事が向こうから飛び込んでくるのですから、ニッチな市場と拡大しない経営の相性は非常に良いといえます。