東京・大田区に本社を置き、1日最大7万食の弁当を配送する玉子屋。現社長が8年で注文数を3倍にした背景には、「売り手」「買い手」「世間」の満足度を考えぬいた戦略があった(写真はイメージです) Photo:PIXTA
東京・大田区に本社を置き、1日最大7万食の弁当を配送する玉子屋。現社長の菅原勇一郎氏が、銀行員から玉子屋に転職し、8年で注文数を3倍にするために行った改革の数々を明かす。本稿は菅原氏の著書『東京大田区・弁当屋のすごい経営』(扶桑社)より一部を抜粋・編集したものです。
銀行時代に学んだ
「三方よし」を磨く
私は東京都の大田区で玉子屋という宅配弁当の会社を経営しています。お弁当は、日替わり弁当1種類のみ、450円のお弁当を毎日6万~7万食、製造・配達しています。
玉子屋は私の父が起こした会社で、そもそも事業を継ぐつもりがなかった私ですが、1997年、27歳のときに玉子屋に入社しました。当時の事業規模は1日2万食を超えるくらい。そこから毎年順調に配達数を伸ばしてゆき、10年後の2007年には6万食を突破しました。現在は日替わり弁当で年商約70億円、玉子屋グループ全体で年商は90億円です。
実は、私は玉子屋に入社する以前、銀行に勤めていたことがあるのですが、その時にさまざまな大企業、中小企業とのお付き合いの中で「三方よし」という考え方を学びました。
「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」
売った人も買った人も満足して、世間も満足する、つまり社会に対する貢献にもなるのがいい商売であるという意味で、もともとは近江商人の心得だそうです。
銀行員の視点で玉子屋の決算書を見たときに、「ああ、ウチって三方よしの会社なんだな」と初めて気づきました。
たくさんのお客様にご満足いただいているから弁当の食数は伸びている。食数が伸びて仕事が拡大していく中で、従業員も喜んで仕事をしている。会社自体は健全経営でお国のために税金をきちんと納めているし、何より美味しくて栄養バランスのよい弁当を手頃な値段で提供することで働く人たちの役に立っている。
自分が入ったら玉子屋の「三方よし」をもっと磨きたいと思いました。お客様にはもっと喜んでもらいたいし、従業員にはもっと生き生きと仕事をしてもらいたい。会社としてこれからも健全な成長軌道を描いていきたい。
そのために何をすべきか。まず取り組みたいと思ったのはメニューの改革です。
玉子屋の弁当は確かに美味しい。でも自分がサラリーマンをしていて毎日食べたいとは思わなかった。なぜか。
玉子屋の弁当は日替わりだからメニューは毎日違います。しかし、以前はたとえばハンバーグのソースはデミグラスソースしかなかった。付け合わせのスパゲティの種類にしてもミートソースとナポリタンの2種類だけ。もっともそれは玉子屋に限った話ではなくて、当時はどこの弁当もそんな感じでした。胃袋を満たすこと優先の、見るからに男性的な弁当が圧倒的に多かったのです。
もっと女性に喜ばれるメニューづくりをするべきだと思っていました。男性社員がガッツリとした弁当を食べているのを見ても、同じ職場で働いている女性社員が「私も食べたい」とはなかなか思わないでしょう。でも女性社員が美味しそうに弁当を食べているのを見れば、男性社員だって食べたくなるに違いない。
玉子屋の弁当はブルーカラーだけではなく、オフィスで働くホワイトカラーにも好評をいただいて大きく食数を伸ばしてきました。今後もホワイトカラーの食数を伸ばしていくのであれば、もっと女性に訴求するようなメニューにブラッシュアップしなければならないと感じていました。
食品偽装のグレーゾーンを
初めてなくした弁当屋
ハンバーグのソースやスパゲティのバリエーションを増やす。もっと野菜を使ったメニューを増やしたり、フライや天ぷらの衣を薄くしてヘルシー志向に寄せていく。盛り付けや食材のバランス、色合いなどにもっと気を使って、見た目の美味しさも強調する。
魚の切り身の大きさにばらつきがあるのも気になっていました。胴体の中心部と尻尾に近い部分では同じ大きさだとしても厚みが違います。尻尾に近い部分が当たって気を悪くするお客様だっているかもしれない。切り身が均等になるようにカットも工夫しました。
また2000年代に入って、輸入牛肉を国産牛肉と偽る牛肉偽装事件が大きな社会問題になり、その後も原材料の偽装、産地の偽装、消費期限や賞味期限の偽装など、各種の食品偽装事件が頻発して、食の安全に対する関心が高まりました。
食品偽装自体は以前からあったわけで、当時の食品業界はまだ野放しに近い状態でした。
菅原勇一郎『東京大田区・弁当屋のすごい経営』(扶桑社)
たとえば東北では「モウカ」と呼ばれるサメ(ネズミザミ)は、焼き方次第でマグロの照り焼きのような味になります。深海魚を銀ダラと謳って売っている店も多かった。鮭弁に鮭(サーモン)の代わりに安価なマス(サーモントラウト)を使うのは偽装にも数えない世界だったのです。
弁当業界でも偽装は横行していた。玉子屋でもかつては一部グレーな食材が使われたことがありました。私は玉子屋に入ってから業界の実態を知って、これを正さなければいずれ大きな問題になると思っていました。お客様に安心していただけるいい食材を徹底的に使って、それをきちんとお伝えする体制を率先してつくり上げる。それもメニュー改革の一環に位置づけました。原産地など食材の表示を一つひとつクリーンにしていった弁当屋は、恐らく玉子屋が最初だと思います。







