政府がEV充電インフラ設置を支援しようと設けている補助金を巡り、論争が勃発している。7月上旬に、インフラ設置事業者、ENECHANGE(エネチェンジ)とユビ電の間で意見が対立し、業界がざわついた。突き詰めればゴールは同じでアプローチ論の違いなのだが、財布のひもを握る経済産業省のジャッジはいかに。特集『EV充電ゴールドラッシュ』(全8回)の最終回は、補助金も絡む今後のEV充電インフラ普及策の在り方を問う。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
メディアを巻き込んで
ENECHANGEとユビ電がバトル
「ENECHANGE株式会社が開催したメディアラウンドテーブルにおいて、不正確な情報の流布による不当な競争行為を受けていることを認識しました」「この問題の本質とその影響を明確にし、適切な対応を求めていきます」
穏やかならぬ文章が、EV(電気自動車)充電インフラ設置事業を展開するベンチャー、ユビ電(ソフトバンクからカーブアウトして2019年設立)のホームページに掲載されたのは7月11日のこと。発端はその1週間前にさかのぼる。
ユビ電は7月4日、福岡県のある既築マンション駐車棟において、全429区画で個別に充電できるEV充電インフラの導入が決定したと発表。それを知ってかみついたのが、EV充電インフラ設置事業で競合するベンチャー、ENECHANGE(エネチェンジ)だった。
たまたま同日にメディア・ラウンドテーブルを開催していたENECHANGEの城口洋平CEO(最高経営責任者)が「あくまで事業者もルールの中でやっていることだが、補助金が使われている場合、4億円を超えるものになる可能性がある」とし、全区画にEV充電インフラを設置することについて問題提起。この動きをユビ電が察知し、冒頭のような怒りに満ちた対応につながった。
その後ENECHANGEは、補助金の想定申請金額としてはじいた4億2900万円については誤りだと認め、謝罪文を7月11日に自社ホームページ上に掲載した。両社とも訂正後の額を開示していないものの、記載金額より大きく下回るということのようだ。
しかし論争の本質ともいうべき、補助金を使った「EV充電インフラ普及のあるべき姿」に関しては、両社の間で見解の隔たりがあるまま。一悶着の後に開かれた経済産業省の充電インフラ整備促進に関する検討会(オンライン)で、この件の“場外戦”かのように両社首脳から正反対の意見が上がった。
財布のひもを握る経産省は8月、今年度執行される補助金の予備分では、一定のジャッジを下した。
経産省のジャッジの内容に加え、両社の間で起こった論争の本質ともいえる、補助金の在り方への“思想”の違いを、次ページから明らかにしたい。