電力大手や自動車大手の“EV充電連合”である老舗e-Mobility Powerについて、公正取引委員会が7月、高速道路における急速充電器がほぼ同社の独占状態になっているとし、新規参入の促進を提言した。また米国ではテスラの急速充電規格に他の自動車会社が合流する動きが始まった。特集『EV充電ゴールドラッシュ』(全8回)の#3では、日本発のCHAdeMO(チャデモ)規格の急速充電網で最大手、e-Mobility Powerへのまさかの公取委の横やりに加え、黒船・テスラの攻勢によって激変する競争環境をレポートする。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
公正取引委員会が報告書で
e-Mobility Powerを名指し
「ほぼ全てが一事業者によって設置され続けるという状況では、EV充電器のイノベーションに即応できないという問題が生じる恐れがある」「将来的には、新規参入を促進することにより、EV充電サービスの競争が活発化することが望まれる」――。
「市場の番人」とも呼ばれる公正取引委員会(公取委)は7月、高速道路における電気自動車(EV)充電サービスに関する実態調査報告書を発表した。
違反行為を摘発するものではなく、今後急成長が見込まれる市場などを対象としたアドボカシー(唱道)活動の一環として、特に急速充電ニーズのある高速道路が調査分野に選ばれた。
冒頭のように公取委は「一事業者」を事実上の独占状態だと指摘した。その事業者とはEVの急速充電器のネットワークで最大手のe-Mobility Power(eMP)だ。
東京電力ホールディングス子会社の同社の株主はそうそうたる面々だ。中部電力に加え、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、三菱自動車といった国内の自動車メーカーの大手が出資する。さながら“EV充電連合”だ。ルーツをたどれば、EV黎明期から充電インフラを整備してきた、この業界の老舗ともいえる存在なのである。
報告書の中で、公取委は今後のEV充電インフラの整備政策の在り方について、「経済産業省および国土交通省において議論を深めるべき。公取委も競争政策の観点から参画する」と表明した。一方、EV充電インフラ設置事業者と高速道路会社に対しては、独占禁止法上の問題となる恐れがある行為を例示し、「留意して事業を行う必要がある」と説いた。
報告書に対し、eMPの姉川尚史会長はダイヤモンド編集部の取材に「設置するプロセスにおいて他社を排除するような約束事をNEXCOと結んでいるわけではない。現時点でもうかっているわけでもない」と説明する。その上で、「充電インフラはEVが増える前にぽつぽつと作らないといけない。その段階で独占といわれても……」と困惑する。
EV充電インフラでゴタゴタが生じる国内を尻目に世界に目を転じれば、米国でテスラの急速充電規格NACSに他の自動車会社が合流する動きが始まった。急速充電の規格争いは、世界で覇権争いが生じていたが、eMPの急速充電網が採用するのは日本発のCHAdeMO(チャデモ)規格である。その対抗馬の一つであるテスラ発のNACSが、世界を飲み込むかの勢いを見せている。
日本の主流規格を押さえてきたeMPを取り巻く競争環境が大きく変わろうとしているのだ。