EV(電気自動車)の急速充電では、日本と米国、欧州、中国で規格の覇権争いが続いてきた。だが、米国で今年に入り、テスラの規格に他の自動車会社が収斂する動きが始まり、テスラ規格が世界のデファクトスタンダードとなる“一歩”を踏み出したように映る。ただし、日本発のCHAdeMO(チャデモ)規格生みの親で、東京電力ホールディングスフェローでもある姉川尚史氏は強気だ。特集『EV充電ゴールドラッシュ』(全8回)の#2では、姉川氏がロングインタビューで明かしたイーロン・マスク氏との過去のやりとりや、「日の丸規格」の勝算について紹介する。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
CCSからNACSへの合流は
GM、フォードが「ギブアップした」
――日本発のCHAdeMO(チャデモ)規格が2000年代後半に誕生した経緯から教えてください。
当時、規格は(欧米の主な規格)CCSも、(中国の主な規格)GB/Tも米テスラ方式もなかった。
テスラは、自分たちの車は自分たち(のインフラ)で充電するポリシーでした。それはそれでいいんですけど、私はそれは無駄だし、経済合理性が出にくいだろうと思いました。だから複数の自動車メーカーと複数の充電器メーカー、どれにでもマッチングする仕掛け(マルチ対マルチ)が必要だよねというのがチャデモなのです。そういう意味ではCCSもGB/Tもチャデモ方式。
じゃあ規格間でなぜコネクターの形が違うのか。自動車って世界中で非常に厳しい競争をしている。国にとって重要な産業。チャデモは世界中にパテントフリーで広めていこうとしたんですけど、「タダほど怖いものはない」と向こうは思うわけです。これはバックドアの仕掛けがあるんじゃないかと(笑)。
皮肉なんですけど、トヨタ自動車は日本ではEV(電気自動車)に慎重な会社なんですが、外国勢から見ればチャデモ協議会の裏にトヨタの存在が見えるんでしょうね。で、日本と同じこと(チャデモ)をやっていたらろくなことにならないんじゃないかと思って作られたのがCCS。
――米国でテスラが技術開放した規格(NACS)に今年、ゼネラルモーターズ(GM)、フォード(・モーター)など、CCSを採用していた自動車メーカーが続々と乗っかると発表。世界に衝撃が走りました。
「チャデモはピンチじゃないですか」って質問も受けますが、強がり言っているわけではなくてピンチじゃないですよ。CCSの通信手段だとノイズに弱いため、こちらは「うまくいきませんよ」と10年間言い続け、あちらは「いやいや」と言い続けていたわけ。で、GM、フォードがギブアップした。
CCSの勢力の半分の米国が「これは駄目だ」とCCSを捨てたのが、こないだ発表のNACSへの合流なのです。
そして、今度はテスラの問題点についてです。