元刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は、神奈川県警の現役時は主に捜査3課に所属していた。まさに窃盗犯を追う部署だ。

「スリの認知件数がこれほど減ったのは、『日本人が持ち歩く現金が少なくなっていった』という経緯が大きく影響しています。まずクレジットカードの普及があり、次が交通系ICカード、そしてスマートフォンによるキャッシュレス決済が決定的でした。基本的に、スリはカード類を現金化するノウハウを持っていない。彼らが苦労して財布をかすめ取っても、中に現金はあまり入っていない。それどころか今や全ての支払いをスマホで済ませ、財布すら持っていない人もいるわけです。変な言い方になりますが、スリにとって死活問題でしょう」

 スリは現行犯でなければ逮捕できない。小川氏が現役の刑事だったころは、まだ「名人」と称される凄腕のスリが存在していた。警察は彼らの顔も氏名も素性も何もかも把握しているが、“凄腕”は捜査員の目をかすめ、犯行に及んだという。

「私たちは凄腕のスリにはあだ名をつけ、捜査員の間で情報を共有し、犯行現場を押さえようと日夜奮闘していました。例えばスリ犯の名前が『井荻』だったとします。後ろのポケットを専門に狙う犯人なら『ケツパーの井荻』。アメ横のような商店街で財布を抜き取る技術を持っているスリ犯なら『平場(ひらば)の井荻』。初詣やお祭りなど、人出が増える場所を狙う犯人なら『たかまちの井荻』という具合です」