また、スリが減少した別の理由として、小川氏は「窃盗犯の高齢化と、新型コロナの感染拡大も大きい」と語る。

「空き巣、車上狙い、自動販売機狙い、自動車盗という犯罪も、スリと同じように大幅に減少しています。こうした窃盗で生計を立てていた犯人が高齢化し、引退したことが原因です。またスリの場合は通行人の“キャッシュレス化”によって魅力的な犯罪ではなくなり、“後継者”が育つことがありませんでした。そして新型コロナで人通りが激減したことが、高齢化の進んでいたスリ犯に引導を渡す形になったのです」

 ただし、今後はまたスリの被害が増える可能性もゼロではない。小川氏が指摘するのは、外国人すりグループが再来日するというシナリオだ。

「外国人すりグループは組織化しており、社長格のリーダーがトップに立ち、見張り役、足止め役、周囲の視線を遮る『壁』役など、メンバーの役割が細かく定められているのが特徴です。2000年代に日本で猛威を振るいました。ターゲットをグループが取り囲む形で犯行に及びます。代表的な手口としてスーツのジャケットにある内ポケットの底面部を切り裂き、下から長財布をスリ取るというものがあります。コロナ禍が終息し、日本では人通りが戻ってきました。もしスリの発生件数が増加に転じたとしたら、外国人すりグループの来日が疑われるでしょう」

 キャッシュレス、高齢化、コロナ禍……スリの減少は日本の世相を大きく反映した結果だったのだ。

(井荻稔)

AERA dot.より転載