まず、海外の運用会社は既に日本株を自由に買えるし、現実に外国人の株主比率が高い会社が多数ある。株式会社制度を整え、株式市場を開いたばかりの新興国ならいざ知らず、海外の運用会社に日本株に対する関心を持ってもらいたいといまさら働きかけるのは、どうしたことか。

 日本は長年成長していないし、円の為替レートも弱くなっているから、初心に帰ろうという謙虚な気持ちのつもりなのだろうか。日本企業としては、勝手にへり下られてありがた迷惑な話だし、首相の立場なら、経済環境を良くして日本企業に対する魅力の増進を図るのが本道だろう。

 かつての故・安倍晋三首相の「バイ・マイ・アベノミクス」の演説は国民として少々気恥ずかしかったが、「経済政策を変えたので、日本株に注目してくれ」という話の筋は通っていた。しかし、「資産運用特区」は、日本企業の投資価値を直接高める話ではない。

 投資家向けの話は、相手がビジネスマンだし、日本で反応するのも銀行・証券会社などの金融界だから、よほどひどい話をしない限り、好感を持って報道される。首相周辺としては、スピーチさせても無難な話題なのだろう。

規制緩和には賛成だが
なぜ海外運用会社を優遇する?

 資産運用ビジネスにあって規制緩和を行うことは賛成だ。その上でだが、岸田首相の資産運用特区構想で最も釈然としないのは、なぜ海外の運用会社を、優遇措置を与えてまで誘致したいのかだ。日本株に対する運用ビジネスの動きを活発化させたいなら、まず日本の運用会社がビジネスを行いやすい環境をつくることが先決ではないか。

 資産運用特区構想を報じる新聞記事に以下のような記載があった。

「海外株で運用するアクティブ型投資信託のうち、国内の運用会社が自社運用するのは1割にとどまり9割は海外の運用会社に委託している」(「日本経済新聞」9月22日、「『投資される国』へ環境整備 首相、資産運用特区を表明」)。日本の運用会社が海外の運用会社に支払う業務委託費は年間1080億円に及ぶともある。

 そもそも、これは運用会社として大いに恥じ入るべき惨状だ。運用会社にとって実質的な商品は自社の「運用哲学」と「運用の技術・プロセス」のはずだ。対象が国内株だろうと外国株だろうと、自社のファンドマネージャー以下のスタッフが自前で運用すべきもののはずだ。運用ビジネスの利益の源泉は自社のブランド価値にしかない。自社の運用を自ら否定して、売るだけの立場に甘んじてどうするのか。世界のどこにでも乗り込んで行って、自社流を試してみる以外に活路はないはずだ。試してみるうちに、成功することがあり得る。