黄金色に輝く“秋の尾瀬”は
知る人ぞ知る別天地

 国の特別天然記念物でもある尾瀬ケ原と尾瀬沼は、中村さんが人生で最初に出合った桃源郷である。16歳の夏、高校のワンゲル部に入ってまもない中村さんは、先輩の引率で越後三山の中ノ岳・越後駒ヶ岳縦走に挑んだ。テントも食料も全部背負っての4泊5日の山行である。

「越後駒は、登山口の十字峡から前を歩く人の足の裏が見えると言われるぐらい、急な山道で始まります。重い荷物を背負っての縦走で、泣き出すやつもいました。最後に奥只見という秘境を通って、尾瀬に入りました」

 ハードな数日の後に訪れた尾瀬は、まさに別天地だった。

「こんな美しいところがあるんだ、と。ニッコウキスゲや高山植物のお花畑もすごかった。その後、いろいろ素敵な景色を見ましたが、このときの尾瀬の驚きは、一生忘れられません」

 尾瀬の美しさをうたった童謡「夏の思い出」から、尾瀬は夏というイメージが強いが、春夏秋冬、四季の雄大な自然が楽しめる。

「夏より秋の草もみじがよいという愛好家も多いです。沼の周囲のブナもゴールドに色づき、黄金色に埋め尽くされます」

 趣のある山小屋が多く、温泉に入れる小屋もある。会津の秘境、桧枝岐(ひのえまた)村の旅館では山菜、イワナなど伝統のごちそうが楽しめる。

登山歴60年の達人が絶賛する6つの秋山、紅葉が黄金色に輝く桃源郷キラキラと紅葉にかがやくブナの林を歩く。沼周囲の草も秋色に変わり、尾瀬は黄金色に染まる Photo by M.N.
早朝、雲の帽子をかぶった燧ヶ岳(ひうちがたけ)を臨む早朝、雲の帽子をかぶった燧ヶ岳(ひうちがたけ)を臨む Photo by M.N.