落ち葉を踏み締めて歩く奥多摩
天気が良ければ富士山も
「どうして山に登るのか?」と尋ねられて、「そこに山があるから」と登山家のジョージ・マロニーが答えたというのは有名な話だ。中村少年が山登りを始めたのもまさに同じエモーションだった。
「中学に入って、学校帰りに5、6人で、西の山を見ながら『あの山、奥多摩っていうんだよね』と話したのです。僕は本屋さんに行って、こづかいでガイドブックを買いました。そして川苔山(かわのりやま)なら登れそうだから行こうよ、とみんなを誘ったのです」
5月5日の休日、バスケットシューズに、おにぎりと水筒を入れたナップサックを背負って、早朝の青梅線にのった。
「若気の至り、大人でも根をあげるようなロングコースを組んでしまって、『こんな大変なのやだよー』『山なんで嫌いだよー』と言い合いながら、日もとっぷり暮れてから下山しました」
しかし、また登りたくなる。メンバーは変わりながらも、奥多摩にでかけ続け、中2の夏には都内最高峰の雲取山で初めて山小屋泊を体験。自炊だった。高校生までに奥多摩の山はすべて制覇した。
「岩登りを始めたのも奥多摩です。奥多摩は僕にとって『山の道場』ですね」
知り尽くした奥多摩で、歳を重ねた今、オススメするのは槙寄山(まきよせやま)だ。
「東京都と山梨県の県境をはしる笹尾根にあります。笹尾根は三頭山から高尾山までがつながる、マニア向けの尾根です。見晴らしがよく岩がゴロゴロしたアルペンな山もいいですが、槙寄山のように山深い林の中を落ち葉を踏みしめて歩く楽しさに気づくと、山登りの幅が広がります」
檜原村の数馬の湯から笹尾根に向かって登ると西原峠に出る。ここから西に進めばすぐに槙寄山山頂である。天気がよければ、山梨県側に美しい富士山が臨める。西原峠から尾根を東南方向に進むと数馬峠があり、ここも富士山スポットである。