「ジャニーズ会見に事務所側が記者を仕込んだ」というデマ
旧ジャニーズ事務所の会見で、声を荒げてわざと場を荒らすような記者がいた。それを一部のジャーナリストたちが“直感”で、「メディアの人間ではない」とテレビなどで発言したことで、「仕込み記者」疑惑が盛り上がった。
正義のジャーナリストやメディアのみなさんは「NGリストはつくるわ、昔の総会屋みたいなのを仕込むわ、ジャニーズ事務所はまったく反省していない、会見をやり直せ!」と怒っており、ネットやSNSでは「ジャニーズがガラの悪い人間を記者のふりをさせて会場に入れた」という話は、半ば「事実」として語られている。
しかし、「デイリー新潮」が複数の出席者に取材して確認をしたところ、この記者は産経新聞記者だったことがわかった。一般の方はあまりご存じないだろうが、不祥事企業の記者会見などは、経済部ではなく、遊軍の社会部記者や、これまでまったくこの企業を取材していないフリージャーナリストやら有象無象が集まる。その中に時代錯誤的な「やからのような記者」もたまにいるものなのだ。
こういう「事実」が明らかになってからも、「ジャニーズはニセ記者を仕込んでいたのでは」と騒いでいた人たちは特に訂正も釈明もしない。繰り返しになるが、批判をしているわけではなく、ジャーナリストやメディアというのは“そういう人”なのだ。
悪い奴らを叩いている「正義の自分」は多少事実と違うことを言ったとしてもそれは許される。そういう細かな揚げ足取りをするのは、「正義の自分」を黙らせたい卑劣な連中だーー。
冗談抜きで本気でそう考えている人も多いのだ。
筆者は月刊誌の編集者として、著名なジャーナリストにたくさんお会いした。中には、大御所なのにすごく気さくな人もいたが、反権力を掲げているわりに権威的で、絶対に自分を正しいと信じ込み、他人の言葉に耳を傾けない偏屈な人も少なくなかった。
そういう人たちから編集者としておしかりを頂戴しながら、「ああ、これくらい強く自分が正しいと思えないとジャーナリストは務まらないんだな」と感じたものだ。
だから、筆者はフリーになってから自分で「ジャーナリスト」を名乗ったことは一度もない。たまにコメントを求められて「ジャーナリスト」と紹介されても訂正している。
不祥事企業の皆さんが対峙するのは、それくらい「強い信念」をもった人たちなのだ。だから、もし彼らの言っていることが事実ではないのなら、生半可な気持ちではなく強い信念をもって抗議・反論をしていただきたい。
(ノンフィクションライター 窪田順生)