ジャニーズ事務所が2回の記者会見で方針変更した理由は、同社と世間の認識に大きなズレが顕在化したことにある。ビジネスでは、自身と他者の認識にギャップが生じることが多々ある。その解消には「360度フィードバック」が役立つが、使い方を間違えると、かえって意欲と結束を損ないかねない。(モチベーションファクター代表取締役 山口 博)
自分と他者の認識のズレ
どうやって改善していくか
ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)は性加害問題を巡って、9月7日に引き続き10月2日に記者会見を行った。会見の冒頭、東山紀之社長はもともと社名を残す方針であったことについて、「それこそが内向き体制であったと批判されて当然」と語り、方針変更を表明した。
ジャニーズ事務所は「SMILE-UP.」へ社名を変更すること、被害者救済に専念すること、タレントマネジメントと育成業務は新会社が担うことなど、わずか1カ月で大幅に方針が変更された。私は、こうした大規模な方針転換を余儀なくされた最大の理由が、同社の認識と、世間の認識の大きな乖離にあると思えてならない。
自身の認識と他者の認識のズレは、ビジネスにおける日々の活動のあちこちで深刻な問題を引き起こす。「激励したつもりが、相手に強いストレスを与えてしまった」「助言しただけなのに、ハラスメントだと申し立てられた」といったケースはその一例だ。
こうした自身と他者の認識のズレを解消するための手段として、「360度フィードバック」の仕組みがある。360度評価、360度調査、360度レビューなどと呼ばれる。直接のレポートライン(指揮系統)の人からだけでなく、周囲の上位職位、同職位、下位職位の人たちから、フィードバックを得る。ちなみに、筆者は「360度評価」という表現は適切ではないと考えているため、本稿では「360度フィードバック」という言葉を用いるが、その理由については後述する。
「リーダーシップを発揮しているか」「自分の考えを効果的に伝えているか」「他の人の提案に耳を傾けているか」「協力して仕事を進めているか」などの質問に答えてもらい点数化する仕組みだ。
ところが、この360度フィードバックは、使い方を間違えると、毎年ただ繰り返すだけで結果が改善せず全く役に立たない。それどころか、意欲を低下させ、かえってチームの結束を損なってしまう。
リクルートマネジメントソリューションズの調査※によれば、360度フィードバックを実施している企業は31.4%だ。しかし、現在あるいは以前実施していたが「今後は実施しない、あるいはわからない」と回答している企業が、12.6%に上るのだ。
※出典:リクルートマネジメントソリューションズ「360度評価活用における実態調査」
360度フィードバックの取り組みを無駄にしないためには、どうすれば良いのだろうか。実は、意欲や結束を低下させることなく、360度フィードバックの結果を生かして、改善していくことができるようになるには、「3つの手法」が効果的だ。