コロナ禍での“プチバブル”を経て、足元の市況は低迷気味の国内アート市場だが、裏を返せば「投資の仕込み時」との声もあがる。そこで特集『富裕層がこっそり教える 狙い目&穴場 運用術』(全16回)の#13では、初心者が楽しみながらもうけるための「三つのポイント」に加え、どのようなアーティストや作品が有望といえるのかについて、アート市場の基本構造を踏まえて解剖する。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)
コロナ禍の“プチバブル”は終焉?
「アート投資」は仕込み時か
「アート市場が厳しい局面こそ、投資を仕込む好機だ」。現代アートの販売サイトやギャラリーを運営するタグボートの徳光健治社長はこう語る。実は、今まさに、そんな環境が訪れているかもしれない。その理由を説明していこう。
まず、振り返ればコロナ禍が始まった2020年以降、徳光氏は「日本のアート市場は“プチバブル”のような状態となっていた」と話す。かつてない動乱の中で、行き場を失った投資マネーがアート市場にも流入。日本で開かれるオークションでも、従来では考えづらいような高値で取引される例が幾つも出ていたという。
そのけん引役は、日本特有の「イラストアート」と呼ばれる作品の一群。例えば、22年夏にSBIアートオークションが開いたオークションでは、ロッカクアヤコの作品が、同氏の作品の史上最高額となる1億8400万円で落札された。
世界でも注目度が高いアーティストとはいえ、似たタイプの他の作家の作品でも、落札予想額を大きく上回るケースが相次ぐなど、異例の活況を呈していたのだ。
ここで、なじみのない人のために、アート市場を取り巻く基本的な構造を解説しておこう。
美術品の販売は、作家の新作を扱う「プライマリー市場」と呼ばれる1次市場と、いったん売られた“中古”の作品を取引する「セカンダリー市場(2次市場)」に分かれる。
プライマリーでは基本的に、ギャラリー(画廊)や画商を通じて販売され、現代アートの場合、作品が売れると原則として50%ずつを作家と売り手が分け合う形だ。
一方、セカンダリーではギャラリーに買い取ってもらう手もあるが、主要な売り出し方の一つにオークションがある。世界の二大オークション会社は英クリスティーズと米サザビーズで、日本では先述のSBIアートオークションが勢いを伸ばしている。
国内アート市場で“プチバブル”が形成されたのは、オークションによる競り上げで相場がつり上がったセカンダリーだ。先述のオークションの頃は、作品によってギャラリーとオークションの価格差が数倍に広がるなど、過熱感が浮き彫りになっていたという。
作家によっては、オークションで人気が出ると市場価格も上がり、次回作をプライマリーで発表する際、それ以前より価格が跳ね上がることも少なくない。それなら、人気アーティストの作品はプライマリーで買えばよいのでは、と思うところだが、そう簡単な話ではないのだ。
次ページでは、初心者が楽しみながらもうけるための「三つのポイント」に加え、どんなアーティストや作品が有望といえるのか、さらにアート市場の構造を深掘りしながら大解剖。その上で、日本における美術品購入時の税法上の扱いについて、美術コレクターである公認会計士がまとめた取得価額別の区分表を掲載し、作品購入時に、うまく節税も兼ねるための手法を併せて明らかにした。