アートの裏側「美術とお金」全解剖#4Photo:Yoshihisa Egami/EyeEm/gettyimages

今日、世界では「アートはビジネス」との見方が半ば常態と化している。一方、バブルの後に苦い経験をした日本企業にとっては、アートがビジネスとは縁遠い存在であるという時代が続いてきた。だが、ここにきて変化の芽も見え始めている。企業とアートの新たな関わり方を模索する変革の波が動き始めたのだ。特集『アートの裏側「美術とお金」全解剖』(全10回)の#4では、「企業とアート」の関係をめぐる現在地を探る。

「週刊ダイヤモンド」2017年4月1日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は原則、雑誌掲載時のもの。

いよいよ動く!日本企業と「美」
バブル後遺症を脱しアート重視へ

「企業とアート」という言葉を耳にするだけで、ある年齢層のビジネスパーソンはアレルギー反応を起こしてしまうのではないか。

 何しろ、1980年代後半、バブル時代に日本企業はアートで大やけどをしてしまった。“異常”ともいえるほど美術品の収集に精を出し、例えば安田火災海上保険(現損保ジャパン)は87年にゴッホの「ひまわり」を当時史上最高の約53億円で落札。

 大した目利きもせずに巨額を投じたケースも多く、当時は高価な絵画や美術品が銀行借り入れの担保にまで使われたというが、その後の価格崩壊で痛手を被る企業が続出した。中には、二束三文で売却してしまった企業もある。

 そんな苦い経験もあり、企業活動とアートを積極的に結び付ける考え方はしばらく下火となった。

 日本企業がアートから遠ざかっている間に、世界との差は大きく開いてしまった。世界では「アートはビジネス」との見方が半ば常識と化している。

 世界の大きなアートフェアには超富裕層が集う。一般公開の前に、富裕層向け限定の公開日があり、そこで富裕層が作品を買いあさる。

 何しろ、日本では考えられないが、海外では投資家のポートフォリオ(資産構成)に美術品を組み込むことが珍しくない。証券会社のアナリストは株や為替と同列に美術作品についてのレポートを発表しているのだ。

 また富裕層を狙い、米JPモルガンや独BMWなどのハイブランド企業は世界規模のアートフェアに協賛し、ブランド価値の向上や富裕層の囲い込みに活用している。

バブルの苦節を経て
次第に距離を縮めるビジネスとアート

 富裕層の資産をアートに取り込むのが苦手な日本だが、バブル後の失敗から近年までという期間を除けば、実は企業はアート支援、特にコレクションには熱心だった。振り返ると、「実業界の美術コレクターを分類すれば、大きく三つの世代に分けることができる」(多摩美術大学の建畠晢学長)。