金持ちをさらに金持ちにする仕事から
途上国の子どもたちに教育機会を届ける仕事へ

 インカムはいま、僕たちルーム・トゥ・リードが支援する学校で学んでいる。そんなインカムを見守りながら、彼女のおばが感慨深げにつぶやいた言葉が印象的だ。「私たち一族の中で、この子が初めて、学校を卒業できるかもしれないんですね」。


ラオスの女の子 インカム(動画再生時間:3:32)

 2013年3月の段階で、ルーム・トゥ・リードは1万5000カ所以上の図書室・図書館を開いたほか、女子教育支援プログラムで2万以上人の少女に奨学金などの支援を行い、地元政府の協力を得て1500校以上の校舎を建設してきた。図書館の棚を埋めるために現地語で800タイトル以上の本を出版してもいる。

 ネパールから始めた僕たちの活動の輪はこの10年で大きく広がり、現在ではバングラデシュ、カンボジア、インド、ラオス、南アフリカ、スリランカ、タンザニア、ベトナム、ザンビアでも、本を届け図書館をつくっている。

 僕自身の人生も、この10年で劇的に変わった。マイクロソフトで働いていたときは、会社の収益と売上げの増加と市場シェアのことばかり考えていた。どれも裕福な人をもっと裕福にするための数学だ。自分が裕福になるための数字も大切だった。今年はどのくらい昇給できそうか。ストックオプションはどのくらいもらえるか。国外の役職にとどまって、これまでどおり家賃を会社に払ってもらえるか。

 でもいまは、僕にとって大切な数字はかなり違う。本に飢えている幼い子どもたちに、今年は去年より何冊多く本を届けられるか。僕たちの図書館に何人くらいの子どもが来ているか。毎月何冊の本が貸し出されているか。

 この10年間で、ルーム・トゥ・リードが設立した図書館を利用した子どもの数は780万人。とても遠い道のりを、僕たちは一気に駆け抜けてきた。組織もない寄せ集めのボランティアから始まって、いまや数百万人が携わるグローバルな活動になりつつある。

 こんにち、基本的な読み書きができずにいる人の数は世界全体で7億8000万人いると言われている。そのうちの3分の2は少女や成人女性だ。読み書き能力は、食糧問題や治安、人口増加の抑制、環境保護などと同じように、きわめて重要な社会問題だ。

 教育は、あらゆる問題に影響を及ぼす。教育を受けた人は、より多くの金を稼いで貧困から抜け出せる可能性が高くなる。教育を受けた親は、より健康な子どもを育てる。学校を卒業した女性は地域社会で認められ、選挙の投票率も上がる。池に小さな石をひとつ投げると、さざ波が外へ外へと広がるように、次々に変化が起こるのだ。教育の問題を解決することができれば、同時に多くの問題も解決できるにちがいない。

 絵空事にすぎないと思うだろうか?では、僕の父の例を挙げよう。