「軍隊」は隠ぺいが当たり前、宝塚が「クロ」に思えてしまうワケ

 この問題についてわかりやすいのは、旧日本軍だろう。軍のトップである天皇陛下は軍隊内の「私的制裁」、つまりはリンチやいじめを厳禁としていた。軍の上層部も現場に口すっぱく言っていた。だから、偉くなればなるほど「私的制裁はない」と信じ、「皇軍は世界一規律のとれた、モラルの高い軍隊だ」と胸を張っていた。

 しかし、敗戦後にしっかり調査をしたところ、それは単に現場で口裏を合わせて「隠ぺい」していただけで、幹部の中にも見て見ぬふりで黙認していた人も多くいたことがわかった。この隠ぺい体質を戦時中、陸軍部隊に所属して初年兵だった大内誠という人物がこう分析している。

《中隊幹部が私的制裁を黙認しているということは、常日頃彼等が厳守を命じている、私的制裁の厳禁という天皇の命令に反することになるのだが、もし、それを指摘されたとしても彼等は「何月何日、どこそこにおける学科(もしくは訓示)で私的制裁はするなとはっきりと伝えている」と実績簿を手に言い逃れることだろう》(「兵営日記」大内誠・みやま書房)

 筆者はこれと同じことが今、宝塚でも起きているのではないかと危惧している。

 宝塚は「女の軍隊」なので、「上」がいじめやパワハラをしていても、それを「下」が告げ口するなんてことは許されない。このような事実を指摘されても、宝塚としては「外部の弁護士が調査をしたが、いじめやパワハラの事実は確認できなかった」という報告書を手に言い逃れをする。結局、真相が闇に葬りさられてしまうのだ。

 もちろん、「宝塚内部でいじめやパワハラがまん延している」ということが確定したわけではない。歌劇団側の主張するように、25歳の団員が自殺をしたのは「長時間労働」だけが原因かもしれない。

 ただ、それでも「クロ」の可能性があると感じてしまうのは、やはり宝塚と軍隊に共通する組織カルチャーだ。それは一言で言えば、「すさまじく厳しい経験をした人間は強くなる」という思想が組織の根幹にあることだ。