タカラジェンヌになるための「必要悪」、上級生がよかれと…

 なぜ旧日本軍の現場の人々が、天皇陛下が厳禁としていたいじめやパワハラをやめなかったのかというと、これを戦争に勝つための「必要悪」だと信じる人が軍隊内に一定数いたからだ。その一部を紹介しよう。

《余りビンタが酷いと気の小さい人は、「やる気」がなくなってしまうと思います。といってビンタをとらないと、兵の動きが鈍くなり整理がつかなくなってしまう。(中略)私には軍隊生活の三年は大変貴重なものでした。あの時の事を思えばなんでもやれると思い、災難の時も軍隊の事を思い出し、「なんだ此れ位の事」軍隊はもっと酷かったのだ、命まで無くなるのだ、しかし、地方(一般社会)ではまさか命までは持って行かれないのですから、どんな辛い時でも我慢ができました》(「我等の軍隊生活 元輜重兵第三十二連隊第一中隊戦友会八木会 編)

 実は「女の軍隊」でも同じようなことを言っている人がたくさんいる。例えば、宝塚の劇団員だった堀内明日香さんは2019年の講演会でこんな事を話している。

「多くの規律や厳しい掟がある集団生活を過ごします。歌踊芝居といった芸術と、それ以外の生活をしっかりとやります。廊下や階段の角は、壁伝いに直角に曲がる。阪急電車には先輩が乗っているかもしれないので、一両ごとにお辞儀をする等々。あの厳しさを乗り越えられると、根性がつきます。そうすると人生においてどんな困難が来ても乗り越えられます」

 言わずもがな、宝塚の人々が軍隊のような生活に耐えるのは、「舞台芸術」のためだ。自分を厳しく鍛えて、素晴らしい舞台をつくりあげて、ファンに感動を届ける。そのためには「強いタカラジェンヌ」を育てなくてはいけない。

 だから、「上」はちょっとした困難に直面して弱音を吐くような「下」対して、「よかれ」と思って厳しく指導をする。かつて自分が上級生から受けていたような叱責もする。

 しかし、今は小学校や中学校でも、子どもは怒鳴られたり、叱責・詰問されたりということはない。そういう世代が宝塚音楽学校に入って軍隊式の厳しい指導を受け続けたらどうなるか。メンタルがむしばまれて最悪、今回のような悲劇も起きるのではないか。