心の奥底で「パワハラ」を否定できない日本の組織

 このような「パワハラの世代間連鎖」について、2006年に宝塚を退団した東小雪さんが非常にわかりやすく語っている。

「私がこうして証言を続けているのは自分も加害者だったからなんです。予科(下級生)の時は私たちの期が、私が被害者だったんですけど、進級して本科生(上級生)になって新しい予科生が入ってくる時に引継ぎがあって、今度は私が加害者になって下級生を怒鳴っていた」(カンテレ、11月13日

 この話を聞いて、「わかるわかる」と共感する人も多いだろう。そう、「被害者が加害者になって、新たな被害者を生む」というパワハラの無限ループは、宝塚や旧日本軍だけではなく、相撲や職人などの伝統的な徒弟制度の業界、高校野球などの体育会系の運動部、そしてブラック企業など日本社会のあらゆるところに存在しているからだ。

 なぜあらゆるところに存在するのかというと、我々日本人の中には、口には出さないが、心の奥底で「パワハラの効果」を否定できない人がかなりいるからだ。

 弱くてナヨナヨした若者の性根を叩き直すためには、ある程度の鉄拳制裁も必要だ。生意気なことばかり言って、世の中をなめている子どもは、時にひっぱたいてでも、大人の命令に従わせなくてはいけない。組織の秩序を乱して、みんなに迷惑をかける人間は、人格を否定するような叱責をしてでも思い知らせなくてはいけない。社会のルールを守らないばかは、涙を流して反省するまで、実名を晒すなどしてボロカスに叩かなければいけない。

 このように「正義を実行するためには、ある程度の暴力やパワハラはしょうがない」という考えが強い。

 だから、「正義」のためのパワハラやシゴキ・体罰を行う「スポ根的な組織」も好きなのだ。具体的には、坊主頭の子どもが熱中症で倒れるまでシゴかれる高校野球、上官の命令には絶対服従の自衛隊、そして、厳しい上下関係の宝塚だ。ちょっと前にも、某バラエティ番組で、先ほど紹介した、下級生が阪急電車に向かってお辞儀をする伝統を「美談」として持ち上げていた。

 日本人の中には、強い組織、たくましい人をつくるためには、ある程度のいじめやパワハラを「必要悪」として捉えている人が一定数いる。いや、みなさんが想像するよりもかなり多い気がする。

 こういう「スポ根」を称賛するような文化が下火にならない限り、今回のような悲劇はまた近いうちに繰り返されるのではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)