手は震え、親に敬語を使う
壮絶介護で別人になった娘

「まずは臭いです。家中に悪臭が立ち込めていて、真面目な話、息が出来ないほどでした」

 聞けば、和子さんはかれこれもう3年は入浴していない状態。本人が入浴を断固拒否していたそうで、由美さんも無理強いすることが出来ず、濡れタオルを渡して顔を拭いてもらう程度だったらしい。和子さんは自室からは出てこず、食事も襖越しに受け取る牛乳と菓子パンを立ったままで食していたそうだ。更に、排泄もほぼ垂れ流し状態。下着も履いていないため、大のほうはズボンが受け止め、それを由美さんが襖越しに回収。小が出ると「濡れちゃった!」と騒ぐので、その度に濡れていないズボンを差し入れするという不衛生極まりない暮らしを続けていたことが判明する。

 更に、B子さんは由美さんのあまりの変わりようにも驚いたそうだ。

「由美さんの手はずっと震えていましたし、虚ろな表情をされて生気はなかったですね。おまけに、お母さんに敬語で話すようになっていて、以前とはまるで別人でした」

 和子さんは、「虐待(介護放棄)の疑いあり」という緊急事案で、即、特養への入所が決定。意外にも、和子さんはすんなりと引っ越しを受け入れたそうだが、逆に、由美さんの抵抗のほうがすごかったという。

「最初は、お母さんを施設に入れるなんて可哀想の一点張りでした。由美さんなりに、お母さんのことを大事に思っているんですよ。ただ、介護をしようにも拒否されるので、どうしていいのかが分からなかったんだと思います。食べて欲しいけど、リビングでは食べない。でも、自室でなら食べてくれる。ならば、それでいいとなっていき、その内に、お母さんが普通でないという認識が薄れ、そういう人だから仕方ないという思考に陥ったのではないかと想像します」

 とにもかくにも、親子の共倒れ解消に向けて、包括職員は辛抱強く、由美さんを説得。一時的に和子さんを保護し、部屋を綺麗にした状態で、再び、和子さんを迎え入れるよう提案したという。

 和子さんは特養のプロスタッフの誘導で3年ぶりの入浴を果たすのであるが、その間、由美さんには休息を優先してもらったそうだ。十分に休養が取れた由美さんは徐々にメンタルも回復。和子さんを自宅に戻し、介護スタッフの手を借りて、在宅で看ようというところまで話が進んだという。

 ところが、今度は和子さんが自宅に帰るのを嫌がったのだという。

「私たちスタッフは、自宅がいいとも施設がいいとも言える立場ではないので、ご本人とご家族の決断を待つだけなんですが、由美さんがしみじみとおっしゃったことが印象に残っています」

 由美さんはこんなことを話していたそうだ。

「母はもう、私のことを忘れ、自宅のことも忘れたようです。母は牛乳しか飲まないんだと思っていましたが、施設では様々な飲み物を飲んでいるようですし、食事の時間も『ごはんだ!』って喜んでいます。自宅に拘るよりも、母にとっては、この暮らしのほうが幸せなのかも?と思うようになりました」

 今現在の和子さんは、認知症の人たちが暮らすグループホームに移り、穏やかに暮らしているという。由美さんはできる限り、顔を出すようにしているそうだ。

 ここで、介護のリアルに詳しい介護支援専門員である田村和也氏に「由美さんのケース」でのアドバイスをしてもらった。