「退職時に失効」の背景にある4つの理由

日本とは違い、退職者もストックオプションの恩恵を受けられる制度は「米国では当然だ」と語るのは、信託型ストックオプションの発行を支援する「タイムカプセルストックオプション」などを展開する、SOICOの共同創業者で取締役COOの土岐彩花氏だ。

米国の多くの企業では、在籍期間に応じてストックオプションが少しずつ割り当てられ、退職から一定期間内(編集部注:多くの場合は3カ月間)は権利行使できるケースが一般的だ。ストックオプションを行使することで潜在株を顕在化し、生株のまま保持することができる。

ではなぜ日本では米国と違い、退職後にストックオプションが失効するケースが多いのか。土岐氏は「大きく4つの理由があるのではないか」と説明する。

1つ目の理由は、「経営者や従業員が、退職後もストックオプションを行使できることを理解していないから」。土岐氏いわく、「退職後は行使できない」といった特定の行使条件さえなければ、退職後もストックオプションの行使は可能だという。

「日本でも信託型ストックオプションが浸透してきていますが、多くの場合は(租税特別措置法に定める要件を満たした)“税制適格ストックオプション”です。税制適格ストックオプションは厳しい要件を守って発行しなければなりません。その要件の1つが『従業員、社内の人間であること(厳密には会社およびその子会社の取締役、執行役または使用人である個人。大口株主やその特別関係者を除く)』です。ですが、実はストックオプションの付与のタイミングで従業員であれば、退職後も税制適格性は失われません。このことを理解していない経営者や従業員は多いと思います」(土岐氏)

2つ目の理由は「人材流動性の低さ」。一般的に、日本は米国よりも人材流動性が低いと言われている。米国では、「短い期間でも、優秀なエンジニアに活躍してほしい」という考え方が一般的という文化の違いもある。そのため、「スタートアップにおいても『成果を上げるまで長く一緒に頑張った人を報いたい』という思いが強いのではないか」(土岐氏)という。

3つ目の理由は、米国とは異なる「反社会勢力・反市場勢力の概念」にあるという。「元従業員だとしても、少数株主が増えてしまうと、上場時には全員を審査する必要があるため、大きな手間となります。退職後は企業側のコントロールが効かず、(少数株主の反社会勢力・反市場勢力への関与が疑われると)上場が延期したり、証券会社からの指摘を受けることとなります。こうした煩わしさがあるため、『退職時に失効』というかたちになっているのではないでしょうか」(土岐氏)