ただし誤解してほしくないのは、顧客の声を聞くといっても、一つ一つの要望に沿った機能を実装しているわけではない、ということです。わたしたちは受け取ったフィードバックの中から、潜在的で本質的な問題を見極めてプロダクトに落とし込んでいます。聞いたとおりの仕様にすれば、その要望を挙げた1社からは喜ばれるでしょうが、それではスケールしない。

受け取ったことに対して「なぜ」を5回繰り返し、反射的に実装するようなことをせず、本質的な課題を見極め、それをプロダクトに落とし込むプロダクトマネジメント力により、数万社が満足するサービスを提供できるのです。

──開発といえば、メルカリおよびソウゾウ元CTOの名村卓氏がジョインしています。

LayerXの武器は、開発の速さ。でもわたしたちのプロダクトの数とエンジニアの数が増えてきており、そのスピードを保つのがだんだん難しくなってきているんです。

というのも、この機能はなぜこうなっているのか、ユーザーの感じている課題は何か、といった知識、つまりドメイン知識がなければ、どんなに優れたエンジニアでもパフォーマンスを発揮することができない。技術力があれば良いというものでもないんです。

名村さんは、いちエンジニアとしても素晴らしいのですが、エンジニアに武器を渡せるエンジニアでもあります。そして彼はドメイン知識のキャッチアップ力が非常に高い。なので、LayerXのエンジニアたちの底上げ、つまりイネーブルメントを担当してもらいたいと思い、入社してもらいました。

今後、ソフトウェア社会になっていくと足りないのはそれを開発する人材です。学校でもソフトウェア教育を行っていますが、タイムラグが10年から20年はあるでしょう。足りない人材は企業が実践の中で育てるしかないとわたしは考えています。

名村さんも同じ危機感を持っていて、ここに共感してくれた。そして、エンジニアの育成にコミットできる企業や事業があればコミットしたいと考えていた。それで、LayerXへの入社を決めてくださったのです。

また、BtoCサービスであれば、使いやすいものがたくさんありますが、BtoBではなかなか存在しない。なぜ使われているのかというと「業務で使わなくちゃいけないから」だと思うんです。もっともそれはある意味仕方のないことでもあります。というのも、業務向けのサービスは、BtoCサービスに比べ、遥かに複雑度が高いので、複雑さと使いやすさを両立するのはとてもむずかしいことだからです。