たとえば工場などでロボットがうまく動けるのは「そのお膳立てがされているから」。一方で農業の現場ではこうした環境整備が十分には進んでいないこともあり、まずは“自分たちでハウスを構えて全部やってみる”という道を選んだ。

創業前からプロトタイプの開発に着手し、2021年8月に正式に会社を立ち上げた。2022年4月からはラボ農場でミニトマトの栽培をスタート。今夏には卸業者を介して県内のイオンなどへ出荷もした。11月には約2000平米のハウスが完成したところだ。

同社のキモとなる農業ロボットに関しては、特に人件費がかかる「ミニトマトの収穫」の効率化から始めている。

まずはトマトが収穫できそうな場所へロボットが自律的に移動し、3次元カメラで取得したトマトの画像をもとにAIで一粒一粒を検出する。現在は開発途上でもあるため、その映像を遠隔地にいるオペレーターが確認。どのトマトを収穫するかを指示すると、ロボットが収穫をするという流れだ。ゆくゆくは完全自動化を目指しているという。

「7月時点では大体半分くらいが収穫できるような状況でした。収穫率が半分と聞くとものすごく少ないと思われるかもしれませんが、私たちの場合はこのロボットをそのまま販売するわけではありません。(収穫作業の一部が)遠隔から働きやすい環境でできるようになったり、身体が不自由な方でもこなせるようになったりするだけでも価値があると考えています」(豊吉氏)

愛知県知多市に建設した約2000平米のハウス
愛知県知多市に建設した約2000平米のハウス
愛知県知多市に建設した約2000平米のハウスの内部
最初の農作物にミニトマトを選んだ理由の1つは豊吉氏が「(ミニトマトを)好きだった」から。以前嫌いなオクラを育てたことがあるものの、あまり愛情を持てなかったという

トクイテンではロボット開発と並行して、画像データをもとに将来の収量を予測してシフトや物流計画を最適化する仕組みや、病害虫の発生を早期に発見する仕組み、照度・温度・湿度などをもとにかん水量や温度制御を自動化する仕組みなど「スマート農業」の研究にも取り組む。ロボットに関しても収穫以外の管理や運搬などに対応領域を拡張していく計画だ。

「収穫作業や管理作業の自動化によって、人件費換算で3割程度の削減と収穫量の拡大」が当面の目標。2023年後半にはロボットを軸とした一連のシステムによって人件費換算で半分の削減を目指すとともに、同システムを「トクイテンパッケージ」として農業への新規参入を検討する企業などへ提供することも見据える。

温室効果ガス排出量の約11%を占める農業分野では、気候変動対策として欧米を中心に化学肥料や化学農薬を使用しない有機農業への転換が進んでいるが、有機農業は従来の慣行農業と比べて手間がかかる。特に日本では農業従事者の減少・高齢化が課題となっていることもあり、AIやロボットなどテクノロジーの活用に対する期待も大きい。