「登場人物がどん底の気持ちを味わい、感情を炸裂させる場面。初回の撮影で監督が出したアイデアが素晴らしく、すべての回ではないですが、雑踏で叫ぶシーンはかなりの頻度で取り入れています。『スタートアップ』や『投資家』というのが、特徴的なワーディングになっていますし、ある種、流行っぽい面もあります。ただ、実際の起業家のみなさんは、人生を賭けて事業に挑んでいますし、それだけの覚悟を決めるまでの心の動きを表現しています。感情のピークから逆算し、その過程を見せるだけでなく、気持ちの振り幅や角度を大きくつけることも、説得力の面では重要だと考えました」(狩野氏)
ストーリーの大枠は原作に沿ったものだが、ドラマだから表現できる手法や、生身の人間が演じるメリットもある。本作では主人公・大陽が尊敬する渋沢栄一の格言や、論語、韓非子の一節が出てくるが、時に登場人物のキャラクターが加味され、同じ意味でありながら、違った印象を与える場面があることも興味深い。
「初回に『四十、五十は洟垂れ(はなたれ)小僧、六十、七十は働き盛り、九十になって迎えが来たら、百まで待てと追い返せ』という、渋沢栄一の名言が登場します。日常で聞くような言葉ではないのに、竜星涼さんが絶妙なセリフ回しで違和感なく口にしてくれました。太陽の叔父・義知役は原作ではもっと年齢が上ですが、キーマンとして迫力のある人をと思い、反町隆史さんに演じていただいています。また、兄・大海(たいが)役の小泉孝太郎さんは最初から、原作からそのまま抜け出したかのようなキャラクターに仕上がっていたのは、すごいと思いました」(狩野氏)
第3話では正反対の性格の兄弟・大海と大陽が、別のシーンで韓非子の同じ一節を口にしたが、言葉に込められた温度感の差に、妙味を感じた人も多かっただろう。
1人の思いが周囲を巻き込んでいく
作品を通じて、スタートアップ業界との接点が増えたという狩野氏。「インキュベーション施設で、多くの起業家の卵たちが働く姿を見ました。『こうしたところから、将来、大きなことを成し遂げる人が生まれていくのか』と、非常に興味深かったですね」と語る。起業や出資について、詳しくなったわけではないと言いつつ、業種や初期投資の規模など、さまざまな世界があるスタートアップに大きな可能性を感じているという。
「きっかけはささいなことかもしれませんが、純粋な思いで何かを変えたいと考え、そのたった1人の思いの強さに、周囲の人間が巻き込まれ、やがて世の中を変えていく力になる。スタートアップには、そうした可能性があると実感しています。ドラマの中では、これから負け犬が王様に噛みつく、アリと象が逆転するような“胸熱”な展開を迎えますが、そこでキーマンになるのは投資家である大陽の存在。彼はトリックスターであり、このドラマ枠のコンセプトである『New Hero』にふさわしいキャラクター像だと思います」(狩野氏)