ドコモの誕生からおよそ30年で、世界は大きく変動した。通信分野では主役がパソコンからスマホに交代し、固定回線よりもモバイル通信が重要視されるようになった。そして今年、2020年には5Gサービスがスタート。5Gは将来的にモノの通信網を形づくり、社会インフラに溶け込む存在になると目されている。

潮目が大きく変化する中、日系企業は低迷を続けてきた。モバイル通信においては、技術開発での影響力低下も目立っている。3G時代には日本からの出願が4割を占めていたのに対し、5G特許の国別出願数では6位に落ち込んでいる。その5G特許においてドコモは、日本企業として最大級の必須特許を保持している。

「シェア100%から激減」、ドコモの“凋落”に焦るNTT

ドコモの完全子会社化を決めた背景には、NTTの意向が強くにじみ出る。NTTはその出自が固定通信分野を独占する公社にあることから、競争力を抑えるための法的な制約を受けてきた。ドコモの上場後もNTTは親会社であり続けたものの、距離を置いた経営を続けてきた。

その一方、ここ数年のドコモの経営成績に対して、NTTは不満を抱いていたようだ。NTTは携帯電話市場ではシェア1位を維持し続けていたものの、現在のシェアは40%ほどにとどまっている。創業時に市場を100%独占していた状況と比べると、勢いは落ちている。

2019年6月、ドコモは料金プラン「ギガホ・ギガライト」の提供を開始。「最大4割値下げ」をうたう料金改定は大幅な減収をもたらした

この数年間、総務省は携帯電話市場に対して強く介入し続けている。総務省は携帯電話キャリアが大きく利益を上げていることを問題視し、料金を引き下げるよう要請した。2019年度にはドコモは率先して料金の値下げを発表。その結果として、19年度第1四半期(4月~6月)には純利益1923億円減少(前期比11.9%減)という大幅な減収減益を記録した。

NTTドコモの吉澤和宏現社長(左)と、次期社長の井伊基之氏(右) 提供:NTTドコモ

NTTの澤田社長によると、ドコモに完全子会社化を提案したのは、ことし2020年4月頃だという。6月にはドコモの吉澤現社長が任期を迎えたが、異例の続投が決まった。

井伊氏はNTT時代にはグループ全体の競争戦略を策定する立場にあり、親会社としてドコモの経営に関わってきた人物だ。NTTの澤田社長の意向を受け、2020年6月に吉澤社長の続投が決まると同時にドコモの副社長となった。井伊氏は社長就任にあたっての抱負として「新しいドコモを創業する」と表明。新技術の投入や新たなサービスの投入、品質の改善、信頼の回復といった目標を掲げた。

「5Gは広い視点が必要」

退任が決まったドコモの吉澤社長も子会社化に賛同の意を示している。吉澤氏はNTT入社当初からモバイル通信の立ち上げを担当し、社長まで上り詰めたドコモ一筋の人物だ。