株主からの批判殺到はもちろん、VALUに登録していたYouTuberらのマイページにあったはずの優待特典の記載が削除されていたこと、当時VAZの顧問だった井川拓哉氏が暴落直前に高値で売り抜けていたことから”インサイダー取引”も疑われた。

一連の騒動により、一時的にVAZは2017年度の売上の8割を失うことになるが、2018年には芸能人の参入が本格化するなどしてYouTubeが大きく盛り上がったことで、同社は過去最高となる年商約14億円を達成した。

騒動から立ち直ったように見えたVAZだが、所属YouTuberが相次いで退所するほか、2019年には女性YouTuberのわかにゃん氏が給料未払いを告発、人気インフルエンサーねお氏の母親による告発など立て続けに問題が発生していた。そして、2020年10月には「新型コロナウイルスによる経営不振」を理由に森氏はVAZ代表を退任。共同ピーアール代表取締役社長・谷鉄也氏に経営のバトンをわたした。

VAZでの失敗を踏まえ、自分の思考を徹底的に言語化

「僕の強みは時流を読み、ヒットするコンテンツをつくることにあると思っています。VAZは『人気YouTuberが所属する事務所になれば、どんどん発注がくるはず』という予想をもとに創業しました。幸い、事業はスケールし、売上も伸び続けました。でも、事業の視点が短絡的すぎた。当時の僕は実業家ではありましたが、ビジネスで大事な『中長期的な視点』を持つなど経営者としての自覚が足りなかったんです」(森氏)

VAZは急成長を遂げるも、組織体制としては未熟だった。森氏が書いたnoteによれば、VALU騒動後の社内にはゴミが散乱し、会議をボイコットされることもあったという。

「組織が弱くても、売上利益を見込めるビジネスモデルさえあれば勝てると思っていました。ところが、組織が弱いと事業が不安定になったタイミングで共倒れしてしまう。VAZも、事業がピークアウトした瞬間に崩壊していきました。最初から組織を作り込んでいれば、クリエイターファーストに取り組めたはずです。ただ、そこに気づくには何もかも遅く、最終的には自分が代表を退任することにしました」(森氏)

代表を退任後、森氏はただ事業を生み出すだけの「事業家」ではなく、真の意味での「経営者」としてやり直したいと考え始める。VAZでの経営の失敗理由を徹底的に洗い出し、経営者としての自分自身を見つめ直したという。

その後信頼する先輩経営者と話した際、「また事業家になろうとしているなら『やめておいた方がいい』と伝えようと思ったけど、経営者になりたいと考えているなら今度は大丈夫だと思うよ」という言葉を返され、再び起業に踏み切った。