僕がこれまでやってきたことって全部、「シェフ」というビジネスモデルそのものを変えよう、という挑戦なんです。3年前にsio(それまではGrisという店名)をオープンし、シェフとして独立したときは、めちゃくちゃ結果を出しても給料が上がらないという料理業界のジレンマを解消したい思いが強くありました。

そして2年前から「料理業界に愛があるから、料理を作らない」と決めて、僕が厨房に立つことをやめた。それは“厨房以外で稼ぐシェフの新しいビジネスモデルをつくってやる”という決意表明でもあったわけなんですよね。

その後、コロナ禍がきっかけでいろんな挑戦をしてみたら、これはめちゃくちゃ可能性があるな、と気づいて。今年4月に博報堂ケトルをクリエイティブパートナーに迎えて「シズる」を立ち上げました。自分たちの店以外の店舗開発や商品プロデュースまで領域を広げて、クリエイティブの力で食のプロが活躍できるフィールドを開拓しようという試みです。

今回、オープンしたホテルズは最初から僕がいなくても回る仕組みになっているんですが、これって結構すごいことですよね。

──あらためて、ホテルズで鳥羽さんが挑戦しているテーマとは。

「均一化」と「クリエイティブ」の埋まらない溝を埋めにいった。言葉にするなら、そんな挑戦ですね。

ホテルはメニューの味などを均一化することで利益を出すビジネスモデルである一方で、クリエイティビティを上げづらい課題があった。逆に、レストランはクリエイティビティにこだわるがゆえに均一化、つまり収益の合理化ができない課題があったんですよね。

ホテルズではその両軸を共存させて、誰もがいつでも気軽に質の高い食事を楽しめる空間を体現しました。ホテルの定番メニューをシンプルに磨き上げて、シェフがいなくてもシェフの味を安定的に供給できるオペレーションにしています。

メニューもハンバーガーやサラダといった気軽に食べられるものが看板メニューです。特別に凝った盛り付けをしなくても映えるように、器にもこだわっています。その器のサイズも一般的なレストランで提供されているものより、1.5cmほど小さい。滞在時間が2時間以内で循環するように細かく設計されているから、経営の効率もいい。

ホテルズでは朝、昼、夜で異なるメニューが提供される
ホテルズでは朝、昼、夜で異なるメニューが提供される

僕はこのホテルズをパッケージ化して日本中のホテルに販売していけば、“世の中の食のベース”が一段も二段も上がるんじゃないかと思っているんです。

客室稼働率が低迷しているホテルのリブランディングにも使ってほしくて、宿泊のオプションでしかなかった併設レストランの位置付けを、「おいしい食体験を楽しんだ後に、最高の客室に泊まる」という逆転の発想で、再定義したかったんですよ。