もう1つは飲食チェーンや金融事業者の代理店など他店舗展開している企業の中で、(未上場などの理由から)CO2排出量の開示を求められてこなかった人たち。製造業に比べて取引相手の数は多くないものの、社内にノウハウがないため、単にエクセルを渡して「ここに入力してください」ではうまくいかないことも多い。

そこで簡単に使えて、瞬時に排出量を計算できるzeroboardに価値を感じてもらえているのだという。

正式版ではこれらの機能を軸としつつ、CO2排出量の削減管理や施策ごとの費用対効果をシミュレーションできる仕組みなども追加していく計画。その上で「実際のコストや効果はどうなのか」「目標を達成するには何をやるのが1番効果的なのか」を教えてくれる、“経営判断に使えるサービス”を目指していくという。

「このままでは日本でものづくりをする企業がいなくなる」

渡慶次氏は外資系の証券会社を経て三井物産に入社し、金融領域やエネルギー×ICT領域の事業を経験。前職のA.L.I. Technologiesではソフトウェアに関する事業を担い、電力会社向けのシステム開発やコンサルティングなどエネルギー関連のプロジェクトを推進してきた。

転機となったのが、世の中でカーボンニュートラルの見え方が変わってきたことを機に、自社プロダクトの立ち上げを決めたこと。そこで生まれたのがzeroboardであり、それを牽引したのが電力・エネルギーソリューション事業を統括していた渡慶次氏だった。

「もともとはCO2排出量を小口でオフセットしたいというニーズが広がることを予想して、環境価値を柔軟に取引できるプラットフォームを作ろうと考えていたんです。ただ数十社にヒアリングをしてみたところ、価値取引の手前にある『(排出量の)可視化』に課題を抱えている企業が多いことに気づきました。そもそも可視化できなければ価値を買うこともできない。これをきっかけに事業の方向性が定まりました」(渡慶次氏)

ゼロボード代表取締役社長の渡慶次道隆氏
ゼロボード代表取締役社長の渡慶次道隆氏

実際にベータ版を発表してみるとさまざまな企業から引き合いがあり、明確なニーズを感じるとともに、この事業1本で大きなビジネスになる手応えを掴んだ。A.L.I. Technologies自体はハードウェアを主軸とした企業であったため、事業の柔軟性やスピード感を重視した結果、MBOにより別会社として成長を目指すことを決めた。

「企業においてCO2排出量の削減や可視化を進めるためのルールの整備が、欧州手動で欧州の企業が得をしやすい方向へと進められています。単にこのルールに従ってCO2排出量を可視化するだけでは、日本でものづくりをする人がいなくなってしまうかもしれない。そのような危機感があるんです」(渡慶次氏)