台湾の半導体工場が稼働を停止すれば、翌年生み出される計算能力は37%減少する。コロナ・パンデミックよりも、ずっと甚大な損失が生じる可能性がある――。半導体を巡る国家間の攻防を描き、週刊東洋経済の「ベスト経済書・経営書2023」にも選ばれたクリス・ミラー著『半導体戦争』では、最先端技術を巡る米中の対立を浮き彫りにしている。特集『半導体戦争 公式要約版』(全15回)の#14では、世界秩序を一変させかねない半導体の覇権争いに迫る。
ようやく対中戦略を転換したアメリカ
半導体産業で進んでいた地位後退
アメリカ政府や半導体産業の内部では、ほとんどの人々がグローバル化を信奉していた。しかし、現実には、半導体製造の“グローバル化”など起きていなかった。起きていたのは“台湾化”だ。技術は拡散するどころか、替えの利かない少数の企業に独占されていたのである。
競争は企業同士がするべきであり、政府の役目は単に公平な競争の場を提供することだ、とアメリカ政府が思い込んでいる間に、多くの国々、特にアジアの政府は、半導体産業の支援に深く関与し、アメリカの地位は後退していった。
アメリカ当局者の多くは、世界の重要な技術システムに対する中国の影響力が高まっていると危惧していたし、中国が世界有数の電子機器の生産国という地位を利用して、製品にバック・ドアを組み込み、より効果的な諜報活動を行うようになる、とも推測していた。
未来の兵器を開発している国防総省の当局者たちは、今後、半導体依存がどれだけ高まるかに気付き始めた。通信インフラに注目する当局者たちは、アメリカの同盟国が欧米よりもZTE(中興通訊)やファーウェイといった中国企業の通信機器の方を購入し始めている状況に不安を抱いていた。
2018年4月、トランプと中国の貿易紛争が激化する中、米政府はZTEがアメリカの当局者に虚偽の情報を報告し、司法取引の条項に違反したと結論付けた。突然規制が復活すると、ZTEは再びアメリカ製の半導体を購入できなくなった。アメリカが政策を転換しないかぎり、ZTEが崩壊に突き進むのは目に見えていた。
しかし、トランプはZTEの締め付けを、習近平に対して影響力を及ぼす道具としてしか見ておらず、習から取引の提案があると喜んで受け入れた。ZTEはアメリカの供給業者との取引再開を条件に、追加の罰金を支払うことにすぐに同意した。トランプは貿易戦争における影響力を手に入れたと思っていたが、蓋を開けてみればそれは錯覚だった。