実際、今年に入ってからGoogleがChromeで2年以内にサードパーティCookieを完全に廃止する計画を発表したほか、広告単価も減少。その結果、従来のようにページビューを増やし、広告で収益を上げるメディアのビジネスモデルが通用しない時代になってきている。
「今後、ユーザーの満足度と売上が相関せず、UXの悪化と引き換えに売上を薄く広く上げていくメディアは厳しくなっていくと思います。だからこそ、僕たちは1000人でもいいからクラシルのことを大好きでいてくれて、なおかつユーザーの利便性と会社の売上が相関するビジネスモデルに切り替えていくべきだと思ったんです」(堀江氏)
小売事業者のアセットを軽視してはいけない
そんな思いでたどり着いたのが、ネットスーパーの機能をワンストップで提供するクラシルリテールプラットフォームだ。
「ネットで注文した食品が自宅に届く──これは10年後、確実にやってくる未来であるにもかかわらず、何かしら構造の問題があって日本ではネットスーパーが進んでいません。これはあまりにも不便だな、と思ったんです」
「もしかしたら、最初はわずかなユーザーしかネットスーパーを使わないかもしれないけれど、それを10年間続けたら果たしてどうなるのか。まだ世の中に証明されてないことをやることが、僕たちの新しいモチベーションであり、新しい挑戦になると思いました。それによってユーザーが便利になって喜んでお金を払ってもらい、僕たちも得をする。最初は収益が出ないかもしれないですが、10年後にマーケットが大きくなったときにシェアが獲れていれば収益がもらえる事業はいま仕込むべきだと思ったんです」(堀江氏)
2018年7月にヤフーの連結子会社になったdely。子会社化のタイミングで「食領域の課題解決のためにコマース事業にも参入する」と語っていた。今年に入ってから食品ECサイト「クラシルストア」を開始し、コロナ禍で売上が落ちた飲食店を出店手数料無料で支援する取り組みを2020年7月まで実施していた。
執行役員・CTO(最高技術責任者)であり、コマース事業の責任者を務めていた大竹雅登氏は「2018年頃から、ありとあらゆるアプローチで食品ECの方向性を模索し、これまでに何回も失敗してきました」と語る。
「いろんなことを試す中で見えてきたひとつの答えが“小売事業者との協業モデル”だったんです。彼らが100年近くかけて作り上げてきたサプライチェーンや店舗のアセット、お客様からの信頼を僕たちが同じように作れるのかと言えば作れません。だからこそ、既存の小売事業者を尊重して彼らの強みを生かしながら、僕らの強みも生かす必要があるのではないか、と思ったんです」(大竹氏)