一つの分野に
しがみつくのは危険

 安定した大企業もいいけれど、そこから抜けることも常に頭に置いておく方がいいと山極さんは勧める。一つの会社に勤め続けるのと同様、一つの分野にしがみつくのも危険だと言う。

「VUCA——先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代、若者はそれに対応できるフレキシビリティーを養っておく必要があります。自分が得意なことは何なのか、興味を示せる分野は何なのか、将来有望な職業や分野は何なのか、常に考えて、自分の中にいろいろな能力を育て、いろいろな自分を諦めない。そういうしたたかさを持ちながら生きていくことが、これからの社会で成功する資質になると思います」

 先行き不透明とは、言い換えれば多様な可能性が開けることだと山極さんは前向きに捉えている。だからこそ「今の自分に満足するな、複数の自分を開発せよ、どこにどんな可能性が転がっているか分からないのだから」と若者を激励する。

さまざまな価値観に触れ
新たな自分を発見

山極壽一氏が提言、ゴリラに学ぶ就活生と親の「理想の関係」総合地球環境学研究所所長             山極壽一                    やまぎわ・じゅいち/1952年生まれ。総合地球環境学研究所所長。霊長類学者。元京都大学総長。日本霊長類学会会長、国際霊長類学会会長、国立大学協会会長、日本学術会議会長、内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員を歴任。2020年4月より現職。著書に『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』(朝日新書)など。

 長年ジャングルでゴリラを研究してきた山極さんは「複数拠点主義」を唱えている。

 自身もゴリラや狩猟採集民のように複数の地域を巡りながら生きてきた。複数の小さなコミュニティーに属し、それを渡り歩く中で、新たな自分を発見できると言う。

「いろんな地域にネットワークを築いて、多様な仲間を増やしていくことで自分を豊かにすることができます。複数の能力、複数の自分を持つことが人生を幸福にしてくれるのです。もし一つの職業で満足な収入、やりがいが得られないなら、多業や兼業もありです」

 山極さんは今「コンヴィヴィアリティー(自立共生)」というキーワードに注目している。個々人が自立して助け合う自立共生が、これからの望ましい生き方だと言う。自立するために「できれば高校で家出しろ」「少なくとも大学では親から離れろ」と発言してきた。基本はゴリラに学べばいいと。

「ゴリラの生き方が美しいのは、子離れがいいし、親離れもいいところです。母親はお乳を3〜4年与え続けるのですが、お乳を吸わなくなったら子どもの方からさっと離れます。で、その子どもを今度は父親が引き取って思春期まで育てる。そして思春期を過ぎると、子どもは自分から出ていきます。だからみんな自立している。ひるがえって人間を見てみると、親が子どもから自立できていないケースが多い。子どもが生きがいになってしまっています。それは子どもにとってよくないということに、気付いていただきたいですね」