総合地球環境学研究所所長 山極壽一写真提供:小林さやか氏
*本稿は、現在発売中の紙媒体(雑誌)「息子・娘を入れたい会社2024」の「Visionary Leader 『新しい時代の生き方、働き方』」を転載したものです。

「ビリギャル」刊行から10年。主人公のモデル小林さやかさんは、現在、米国コロンビア大学教育大学院で研究生活を送っている。高校生の時に偏差値30台から慶應義塾大学に現役合格を果たした彼女は、卒業後ウエディングプランナーとして働き、30代で海外に留学。次のキャリアを描こうとしている。その節目節目で「決断する力」の源泉となったものは何だったのか。

幸せの瞬間を見届けたい!
ウエディングプランナーは天職だった

 就活生の皆さんは、10年後の自分の姿を思い描いてみたことがあるだろうか。

 2013年刊行の『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』が空前のベストセラーとなった。その主人公のモデル小林さやかさんは、現在米国の大学院に留学し、認知科学の研究に取り組んでいる。

 10年前はウエディングプランナーとして多忙な日々を送っていた小林さん。当時は思いも寄らなかった人生の展開に、新たな発見を実感する毎日だ。なぜ、30代での海外留学だったのか。話は、大学3年で就職活動を始めた頃にさかのぼる。

「私は何をやりたいんだろう?」

 思い悩んでいるとき、恩師の坪田信貴先生の言葉が頭に浮かんだ。

「君は、人のことが大好きだね」

 そう言えば──。楽しくて仕方がなかった2年半の居酒屋でのアルバイト。店員もお客さんもみんな親しく、一緒に笑顔になれる時間を共有できる店だった。

「人が幸せになる瞬間を目の前で見られるサービス業界で仕事がしたいんです!」

 坪田先生にこう告げると、一冊の本を薦められた。リッツ・カールトンホテルのサービスの源泉を解説する内容だった。感動した小林さんは、矢も盾もたまらず同ホテルに赴き、フロントで面接を直談判するが、新卒募集はないと諭される。では、ホテルに匹敵する非日常的なサービスとは何だろう──。

 考え抜いた末に行き着いたのが「結婚式」だった。大学卒業後は、ウエディングプランナーとして働き、何組ものカップルの幸せの瞬間を見届け、自身でも“天職”と思えるほど仕事に打ち込んだ。