人も企業も
「運命」には抗えない!?

 その一つが、「運命を切りひらくために」の章にある「是非善悪以前」というパートだ。そこには、以下のような記述がある。

「この大自然は、山あり川あり海ありだが、すべてはチャンと何ものかの力によって設営されている。そして、その中に住む生物は、鳥は鳥、犬は犬、人間は人間と、これまたいわば運命的に設定されてしまっている」

「その人間のなかでも、個々に見れば、また一人ひとり、みな違った形において運命づけられている。生まれつき声のいい人もあれば、算数に明るい人もある」

「いってみれば、その人の人生は、90パーセントまでが、いわゆる人知を超えた運命の力によって、すでに設定されているのであって、残りの10パーセントくらいが、人間の知恵、才覚によって左右されるといえるのではなかろうか」(PHP研究所『道をひらく』P26~27)

 つまり、人間には運命があるというわけだ。人生で起こる物事のうち、ある程度は自力でコントロールできるかもしれないが、多くのことは運命に抗えないのだ。

 入山氏によると、「この構図は企業にも当てはまる」という。

競争を生き残る企業と滅びる企業の「決定的な差」、松下幸之助『道をひらく』が予言していた早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏(ダイヤモンド・オンライン「学びの動画」より)

 一度生まれた企業は、企業活動が軌道に乗ってくると、その本質が抜本的に変化することはまれだ。電機メーカーが食品メーカーに業態を変えることはほぼない。人材会社が土木建築会社にシフトチェンジすることもない。出版社が自動車メーカーに転換することもない。

 業態が固まった段階で、企業の行く末はある程度「運命づけられている」といえる。

 この流れは、一度生まれた生物が、遺伝情報の入ったDNA配列(ゲノム)を死ぬまで変えられないことにも似ている。オタマジャクシは成長とともにカエルへと姿を変えるが、天変地異が起きてもトカゲになることはない。

 入山氏によると、このように「ビジネス」と「生物」を関連づけて論じる手法が、学問の世界で注目を集めているという。それが経営学における「組織エコロジー理論」である。

 ここで言う「エコロジー」とは「生態学」を指す。生物は気候・地質・外敵などの環境によって、行動パターンや生死がある程度決まってしまう。生まれた環境に外敵が多ければ、ある程度は外敵から逃げ続けられても、最終的には捕食される。

 これは企業における市場競争と同じである。生態学の知見をビジネスに応用し、「企業の運命」を読み解いていくのが「組織エコロジー理論」というわけだ。