世界中の金融機関を経営破綻の淵に追い込むほど、なぜ、サブプライム関連の証券化商品は暴落し続けているのか。どうして、証券化商品市場には買い手が現れないのか。市場が備え持つはずの底値発見機能や価格形成機能が、不全のままなのはなぜなのか。著書『「質の時代」のシステム改革』(岩波書店)で、「市場の質理論」を展開した矢野誠・京都大学教授(兼,慶應義塾大学客員教授)に聞いた。
矢野誠京都大学教授(兼、慶應義塾大学客員教授) |
―「現代経済の健全な発展には、高質な市場が不可欠だ」という「市場の質理論」からすれば、今回の世界的金融危機は、市場の質の低さが原因なのか。
そう思う。「玉石混淆の宝石袋」が出回っているような市場は、質が高いとは言えない。良いものも悪いものが入り混じり、区別して取引できない市場では、正確な商品評価はできなから、適正価格も形成されない。
―「玉石混淆の宝石袋」とは何か。
サブプライム関連の証券化商品市場のことだ。今回の真の問題は、サブプライムローンという危険性の高い資産と、より安全な住宅ローン(例えばプライムローン)が一束にされて証券化されたことにある。
―危険性の高い資産と安全な資産を組み合わせるのは、リスク分散のために有効ではないか。
その通り、有効だ。その有効性に、誰も疑いを持たなかった。それが、大変な問題を引き起こした。
一束にされて証券化された商品は、さらにさまざまに組み合わされ、もう一度証券化された。それが、三次、四次と繰り返し証券化された。せっかく分けたものを再び束ね、それを繰り返したら、結局はもとのサブプライムローンのリスクがすべての証券化商品に入り込んでしまう。
―それが、「玉石混淆の宝石袋」か。
そうだ。全証券化商品にリスクが相関する、と表現してもいい。その上、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれる証券化商品の貸し倒れ保険まで大量に販売され、リスクの所在はいっそう見えなくなった。